ガスの中の登頂、そして晴れ間の絶景──斜里岳2024.9.16

登山

はじめに

斜里岳とは

北海道・知床半島の付け根にそびえる**斜里岳(しゃりだけ)**は、標高1,547メートルの独立峰。知床連山の一角にありながら、どこか孤高の雰囲気をまとった姿が特徴です。その堂々とした山容からは、晴れていればオホーツク海や根釧台地、知床連山の山並みまで一望でき、道東を代表する名峰のひとつとして多くの登山者に親しまれています。

登山ルートとしては「清里コース(旧道・新道)」が一般的で、沢沿いの変化に富んだ道を進み、稜線に出ると一気に展望が開けるダイナミックなコース構成が魅力です。高山植物も豊富で、夏から秋にかけては色とりどりの花々や紅葉も楽しめます。

また、斜里岳は日本百名山にも選ばれており、その美しい山容と、山頂からの大パノラマは多くの登山者の心を惹きつけてやみません。晴れた日の景色はもちろん、今回のようにガスに包まれた幻想的な斜里岳もまた、山の持つ多面性を感じさせてくれます。

登山の目的・選んだ理由

9月の三連休、せっかくなら遠出をして北海道の山に登りたい──そんな気持ちから今回の山旅が始まりました。候補に挙がったのは、まだ行ったことのなかった道東の名峰・斜里岳。以前から写真で見て憧れていたその端正な山容と、知床の自然に囲まれたロケーションに惹かれて、この山を目的地に決めました。

また、9月中旬はちょうど夏と秋の境目。高山植物の花は落ち着きつつも、空気が澄み、山の表情がぐっと落ち着きを帯びてくる時期でもあります。天気が良ければ、オホーツク海まで見渡せる大展望も期待できる──そんな思いを胸に、斜里岳の登山に挑むことにしました。

とはいえ、山の天気は思い通りにはいかないもの。今回はまさにその「不確実さ」を実感する山行となりました。

アクセス・登山ルート

使用ルート

今回使用したのは、清里コースをベースにした周回ルートです。登りは新道(沢ルート)を使って馬の背〜山頂へ、下山は旧道を通って一周するプラン。沢沿いの変化に富んだ道から稜線歩き、山頂の展望、そして旧道の落ち着いた道へと、斜里岳の魅力をバランスよく感じられるルートです。

早朝4:56に清岳荘を出発。まだ薄暗い中、ヘッドライトを点けて静かに歩き始めます。最初は樹林帯を進みながら、しばらくすると新道の沢沿いルートへ。岩を越え、小滝を巻きながら進んでいくこの区間は、スリルと涼しさを感じさせる斜里岳ならではの道です。

午前8時すぎ、ガスの中を抜けて馬の背に到着。ここから先は稜線に出て、一気に山頂が近づいてくる感覚。残念ながら山頂まではガスが濃く、展望はゼロ。それでも8:18、無事に斜里岳山頂に立つことができました。

その後、三角点へ少し足を伸ばし、写真撮影をして折り返し。下山にかかるころから徐々にガスが晴れ、馬の背に戻る頃には青空が見え始め、テンションも一気に上がります。

復路は旧道を通って下山。途中、竜神ノ池では静かな池面が幻想的な雰囲気を醸し、熊見峠では名前の通り(?)「熊、出ないでくれよ…」と少し緊張しながら通過しました。全体的に静かで落ち着いた雰囲気の旧道は、登りの沢とは対照的で、周回ルートにしてよかったと実感。

12:22に無事清岳荘まで戻ってきて、登山終了。行動時間は約7時間半。前半はガス、後半は晴れという天候の変化も相まって、印象深い山行となりました。

登山口までのアクセス方法

斜里岳の登山拠点となるのは、清岳荘(せいがくそう)。登山口はそのすぐ奥にあり、ここから新道・旧道の両ルートを利用できます。アクセスは基本的に車が便利ですが、公共交通でのアプローチも不可能ではありません。

🚗 車でのアクセス(おすすめ)

札幌方面から
高速道路を利用して約6〜7時間。旭川や網走経由で斜里町へ入り、そこからは県道1115号線を南下して「清岳荘」へ向かいます。

女満別空港から
レンタカーで約1時間30分。国道334号線を経由し、斜里町から清里町へ。道道827号→道道1115号へと進み、標識に従って清岳荘を目指します。

・駐車場:
清岳荘前に無料駐車場あり(20台以上駐車可)。シーズン中の週末や連休は混み合うため、早朝到着が安心です。

🚌 公共交通でのアクセス(やや不便)

JR利用の場合
JR釧網本線「清里町駅」下車。そこからタクシーで清岳荘まで約20分(片道約4,000円前後)。バスは運行していないため、タクシー利用が現実的です。

登山レポート

ガスガスの登り

登山を開始してからしばらくは、まだ周囲の景色も見えていましたが、標高が上がるにつれて、徐々にガスが濃くなっていきました。気づけば、あたり一面が真っ白な世界。沢沿いのルートはもともと変化が多くて視界が効きにくいのですが、それに加えて濃い霧が重なることで、まるで異世界を歩いているような感覚に。

一歩一歩進むたびに、濡れた岩や木の根が滑りやすく、慎重に足を運ばないと転びそうになります。景色がないぶん、登ることそのものに集中する時間。聞こえてくるのは沢の音と、自分の呼吸と足音だけ。普段なら開けてくるはずの稜線も、今日はどこまで登っても視界が開けず、先が見えないもどかしさと、少しの不安を感じながらの登りでした。

それでも足を止めずに進み、ガスの中にぼんやりと現れた馬の背を越え、ついに斜里岳の山頂へ。時間にしておよそ3時間半。到着した山頂もやはり真っ白で、展望はゼロ。でも、静かな空気と湿った風が心に残る、不思議と記憶に残る登頂となりました。

山頂でも視界ゼロ

ようやくたどり着いた斜里岳の山頂。しかし、待っていたのはやはり真っ白なガスの世界でした。周囲はまるで白いカーテンに囲まれたようで、目を凝らしても何も見えない。オホーツク海も、知床連山も、当然その姿を現してはくれません。

せっかくの百名山、しかも展望抜群と名高い斜里岳。正直、登ってくる間ずっと「せめて山頂では晴れてほしい」と願っていたので、がっかり感がなかったと言えば嘘になります。

でも、そんなガスの中の山頂には、別の魅力がありました。風もほとんどなく、音もなく、ただ湿った空気だけが静かに流れていくような、不思議な静寂。視界がない分、五感が研ぎ澄まされ、自分が「今、山の上にいる」という感覚をじわじわと実感します。

景色は見えなかったけれど、それでもここまで登ってきたことが何よりのご褒美。誰もいない山頂で、霧の中にひとり立つ時間は、思いがけず記憶に残る瞬間となりました。

下山で一気に晴れた青空

山頂からの展望を諦めて下山を始めた直後、空気がふと軽くなったような感覚がありました。そして、馬の背へ戻る頃には、まるで嘘のようにガスがすーっと引き始め、青空が顔を出し始めたのです。

それはもう、劇的という言葉がぴったりの変化。ついさっきまで真っ白だった世界が、一気に色づき、太陽の光が差し込み始めます。振り返ると、先ほどまでいた稜線がくっきりと浮かび上がり、山肌や谷の奥まで見通せる大パノラマが広がっていました。

ガスの中を登っていたときの静けさとは対照的に、空が開けて光が差し込むこの瞬間には、自然の力強さと美しさをまざまざと感じました。特に印象的だったのは、竜神ノ池の静かな水面に映る空の青。まるで山が「ありがとう」と微笑み返してくれたような気すらして、思わず足を止めて見入ってしまいました。

登りでは見えなかった景色が、下りでこうして姿を現す──それもまた、山の楽しさであり、自然とのやりとりのように感じられる時間でした。

まとめ

反省と注意点

今回の斜里岳登山での反省点は、まず天候の読みの甘さ。ガスがかかる予報ではあったものの、「もしかしたら晴れるかも」という期待に賭けて登った結果、山頂ではほぼ視界ゼロ。斜里岳のように展望が醍醐味の山では、やはりもう少し慎重に判断すべきだったと感じました。

もうひとつは、沢ルート(新道)の滑りやすさに対する準備不足。濡れた岩や丸太、苔むした場所が多く、特にガスで湿っていたこともあり、非常に滑りやすい状況でした。今回は無事でしたが、登山靴のグリップやストックの有無、ペース配分をもう少し見直す必要があると感じました。

また、下山後に気づいたのは、晴れ間は昼前から訪れていたこと。気温の上昇とともにガスが晴れてきたので、もし行動開始を1〜2時間遅らせていたら、登りの途中から青空が見えていたかもしれません。天候が不安定な日は、あえてスタートを遅らせる「待つ登山」も選択肢に入れておきたいところです。

最後に、熊の目撃情報もある山域なので、熊鈴や携帯ラジオの携行は必須です。静かな山だからこそ、人の存在をしっかりアピールする装備と心構えが大事だとあらためて感じました。

良かった点

今回の斜里岳登山では、山頂での展望こそ得られなかったものの、振り返ってみれば多くの「良かった」が詰まった山行でした。

まず何より、下山時に青空が広がった瞬間の感動は、この山行最大のハイライト。登っているときには見えなかった稜線や谷が、下り始めた途端に姿を現し、まるで山が最後にご褒美をくれたかのようなタイミングでした。特に、竜神ノ池に映る青空と山影は、静かで美しい景色として強く印象に残っています。

また、登りのガスガスな沢ルートも、ある意味で特別な体験でした。視界が効かない分、足元や音に集中する静かな登りは、普段の登山とは違った感覚を味わうことができ、これはこれで貴重な時間でした。幻想的な雰囲気の中を歩くのも、自然が見せる一つの表情だと感じました。

さらに、清岳荘から始まる清里コースはアクセスしやすく整備も行き届いており、全体的にとても歩きやすかった点も好印象。道標や分岐もわかりやすく、初めての斜里岳として安心して歩けるルートでした。

天候は変えられないけれど、その中でもその時しか見られない景色や空気を味わえるのが登山の魅力。そう実感できる、満足度の高い山行でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました