はじめに
西大巓とは

西大巓は、福島県にある標高1,982mの山で、磐梯朝日国立公園内に位置しています。読み方が少し難しいですが、「にしだいてん」と読みます。お隣には有名な磐梯山や西吾妻山があり、エリア一帯は四季を通して登山や自然観察が楽しめる人気の山域です。
冬になると、西大巓はバックカントリースキーヤー・スノーボーダーにとっての楽園に一変。特にグランデコスキー場のトップリフトからのアクセスが良く、比較的短時間で稜線まで登ることができるのが魅力です。天気が良ければ、山頂からは磐梯山、猪苗代湖、遠くには飯豊連峰まで望めることも。
樹林帯を抜けた先に広がるオープンバーンや、北斜面のパウダーゾーンは、多くのBCファンを惹きつけてやみません。とはいえ天候の急変や雪崩リスクもあるため、装備や知識は万全にして臨む必要があります。
アクセスの良さと景色の素晴らしさ、滑走の楽しさがギュッと詰まった西大巓は、東北エリアのバックカントリー入門にもぴったりの一本です。
2月下旬を選んだ訳

今回、西大巓を訪れたのは2月下旬。この時期を選んだのには、いくつかの理由があります。
まず大きな理由は、雪質と安定性のバランス。2月後半はパウダーシーズンの終盤にあたりますが、まだ北斜面などにはドライな雪が残っていることも多く、運が良ければ軽いパウダー滑走が楽しめます。同時に、積雪も十分に安定してきて、雪崩のリスクや下地のブッシュなども比較的少なくなる傾向にあります(※もちろん油断は禁物です)。
また、天候の安定感もポイント。1〜2月上旬は寒気の影響で悪天候が続きやすいですが、2月下旬になると晴れ間が増え始め、山頂からの展望にも期待が持てる時期になります。特に西大巓は山頂から磐梯山〜猪苗代湖方面の絶景が楽しめるので、晴天率も選ぶ際の大事な要素です。
さらに、混雑を避けられるタイミングというのも一因。2月上旬の三連休や年末年始に比べると、2月下旬は少し人の流れも落ち着いてくる時期。静かな山の時間を楽しみたい人にとっては、ちょうどいい穴場タイミングと言えます。
登山計画と装備
ルート概要(2025年2月24日)

今回の西大巓バックカントリーは、グランデコスキー場のトップリフトを起点とする王道ルートを選びました。リフトを利用することで標高を一気に稼げるため、実際の登高はおよそ300〜400mほど。比較的短時間で稜線に出られるのがこのルートの魅力です。
トップリフトを降りたあとは、ゲレンデ外に設けられたバックカントリーゲートから樹林帯へエントリー。序盤はなだらかな森の中を進み、徐々に傾斜が増していきます。前日のトレースが残っており、ルートファインディングにはあまり苦労しませんでした。
中盤以降はやや開けた地形となり、風の影響でクラストしている箇所もありましたが、アイゼン等は使わずに登頂可能でした。登りの途中で見え始める磐梯山や猪苗代湖の景色が心を励ましてくれます。
山頂まではおおよそ1時間半〜2時間弱の行程で、ペースを調整しながら無理なく進めるルートでした。滑走ラインは状況を見て北斜面にドロップ。樹林の間隔が適度で滑りやすく、気持ちのいいパウダーランを楽しむことができました。
装備リスト
【登山・滑走用装備】
- スノーボード(またはスプリットボード)、バックカントリースキー
- シール(クライミングスキン)
- BCブーツ(またはスキーブーツ)
- ストック(伸縮式)
- アイゼン(急登や氷結部分対策)
- ピッケル(滑落防止用/稜線用)
- バックパック(30〜40L程度)
- ヘルメット(滑走時・落石対策)
【安全装備】
- ビーコン(雪崩対策)
- プローブ(ゾンデ棒)
- ショベル
- ファーストエイドキット
- ヘッドライト(予備電池込み)
【ウェア・防寒装備】
- シェルジャケット・シェルパンツ(防風・防水)
- ミッドレイヤー(フリースまたはインサレーション)
- ベースレイヤー(吸汗速乾性)
- グローブ(予備も含めて2組)
- バラクラバ
- サングラス(標高による紫外線対策)
- ゴーグル(滑走時用)
【その他・行動装備】
- 行動食・補給食(ジェル、ナッツ類など)
- 水分(ハイドレーションまたはボトル)
- モバイルバッテリー(スマートフォン用)
- 地図・GPS端末(アプリ併用)
- 登山届の提出(事前提出または登山口提出)
当日の天候とコンディション
気温、風、天気

この日の西大巓は、全体的に気温はやや低めで、登り始めからひんやりとした空気に包まれていました。ただ、風が弱かったため、行動中はそれほど寒さを感じず、歩いているうちは快適なコンディションでした。
風は基本的に穏やかだったものの、山頂付近に近づくと一気に風が強まり、体感温度もぐっと下がりました。特に稜線に出る直前と山頂では、グローブやネックゲイターがないと厳しい寒さ。防風対策はしっかり必要だと実感しました。
天気は終始どんよりとした曇り空でしたが、登っている途中、森を抜けて開けた場所で一瞬だけ陽が差し込み、磐梯山方面の景色がふわっと姿を現す瞬間がありました。その刹那的な美しさが、とても印象的で心に残りました。
天候全体としては安定しており、視界が極端に悪化することもなく、計画通りに行動することができました。
雪の状態

この日の西大巓は、思いがけず非常に良いパウダーコンディションに恵まれました。
前日までの天候から大きな期待はしていなかったのですが、標高が上がるにつれて雪質が軽くなり、山頂付近から北斜面にかけてはドライで沈みのあるパウダーがしっかりと残っていました。
風で叩かれた硬い斜面やクラストした箇所はほとんど見られず、スキーやスノーボードでも素直にターンが入る、滑りやすい雪質。特に樹林帯の間隔が広がるポイントでは、スムーズな滑走が楽しめました。
2月下旬としてはかなり上出来な雪の状態で、全体として満足度の高い一本となりました。
登攀記録
登山口スタート

グランデコスキー場のトップリフトを降り、バックカントリーゲートを通過して雪山の世界へ。ゲレンデの喧騒から一歩外に出ると、そこは静寂に包まれた森の中でした。
前日のトレースがうっすらと残っており、序盤は緩やかな樹林帯の中を進みます。風もなく、雪は締まり気味でスノーシューでも沈み込みは少なめ。足取りは比較的軽く、体もすぐに温まってきました。
静かな森を歩きながら、時折木々の隙間から差し込む淡い光や、木の枝に積もった雪の造形を楽しみつつ、徐々に標高を上げていきます。急登はまだなく、穏やかなスタートとなりました。
登りの様子

樹林帯のなだらかな道を進んでいくと、次第に傾斜が増し、本格的な登りが始まります。トレースはしっかりとついており、ラッセルはほとんど不要。雪質は適度に締まっていて、スノーシューでも安定した足運びができました。
途中からは樹間が少しずつ広がり、周囲が開けてくると、視界の先に西吾妻の稜線がうっすらと見えはじめます。このあたりで風が少し出てきたものの、行動に支障が出るほどではありませんでした。
高度を上げるにつれて雪面はややクラスト気味になりましたが、特別な装備なしでも登れる範囲。ひと登りで稜線へと抜けると、視界が一気に開け、天候が回復するタイミングで一瞬だけ磐梯山方面の景色が広がる場面もありました。
山頂直下では風が強くなり、体感温度がぐっと下がりますが、最後のひと登りを頑張って無事登頂。全体を通して、ペースを崩さず快適に登ることができました。
山頂到達

西大巓の山頂が目前に迫るころ、風が急に強まり始めました。稜線上の風は予想以上に冷たく、吹き飛ばされそうなほどの強風が続き、体のバランスを保つのも難しい状況に。
安全第一と考え、山頂まであと約100mという地点で登頂を断念し、無理せず下山を開始しました。確かに山頂からの展望は魅力的ですが、風の影響で滞在が危険と判断したため、今回は潔く撤退。
この判断は正しかったと思います。無事に戻ることを優先し、危険を回避できたことで、結果的に安全で楽しい滑走に集中できました。
滑走記録
滑走ルートの選定

滑走開始地点に立ったとき、目の前には木々が密集する斜面が広がっており、先のルートがはっきりと見えませんでした。視界が限られている中での滑走は、瞬時の判断力が求められるため緊張感が高まります。
安全を最優先にしつつ、木の間隔や地形の変化を注意深く見ながら、滑りやすそうなラインを探しました。予測と実際の地形にズレがないか慎重に確かめつつ、一歩一歩進んでいく感覚。
こうした環境では自分の判断が結果に直結するため、集中力を切らさずに滑ることが大切だと改めて感じました。
雪質とラインの感想

全体的に雪質は良好で、パウダーの感触を楽しめる場面も多かったものの、コースにはちょこちょこと登り返しがありました。スノーボードでの滑走には少し厳しい部分があり、登り返しでの体力消耗が気になりました。
雪は軽くて滑りやすかったものの、登り返しの繰り返しが連続すると、ライン取りの自由度が制限されてしまう印象です。樹林帯の中での細かな地形変化や木の配置もあって、スムーズに滑り続けるのは難しい場面もありました。
とはいえ、その分ラインの選択やコース取りに工夫のしがいがあり、スノーボード技術のトレーニングには良い環境とも言えそうです。
振り返りと反省点
良かった点

今回のバックカントリーで特に良かったのは、まず雪質の良さです。想像以上のパウダーに恵まれ、滑走の楽しさを存分に味わえました。
また、アクセスの良さも大きな魅力。グランデコのトップリフトからすぐに稜線へ抜けられるため、短時間で効率的に登りと滑りを楽しめました。
加えて、静かな環境で自然を満喫できたことも印象的です。混雑を避け、ゆったりとした時間の中で山の空気を感じられたのは貴重な体験でした。
これらの点が揃い、充実した一日となりました。
改善すべき点

今回のコースは、スノーボードで滑るにはかなりのテクニックが求められる点が課題として挙げられます。樹林帯の間隔が狭く、細かなライン取りが必要なうえに、ちょこちょこと登り返しがあるため、滑り続けるための技術と体力が問われました。
また、登り返しが多いことで疲労が蓄積しやすく、初心者や体力に自信のない方には厳しいコースと言えそうです。滑走ラインの選択肢も限られるため、もう少し広めで滑りやすい斜面が増えれば、より快適に楽しめると感じました。
今後は、滑走の連続性を保ちやすいルート探しや、より安全かつ滑りやすいコース設定ができるとさらに良くなりそうです。
まとめ
西大巓バックカントリーの魅力

西大巓バックカントリーの最大の魅力は、アクセスの良さと自然の静けさが両立していることです。グランデコスキー場のリフトを活用すれば、短時間で標高を稼ぎ、豊かな雪質と開放的な景色を楽しめます。
また、山頂からの眺望は広大で、磐梯山や周辺の山々を一望できる点も魅力のひとつ。季節や天候によって変わる表情豊かな自然を感じながら、ゆったりとした時間を過ごせるのは格別です。
さらに、適度な樹林帯が滑走のアクセントとなり、ライン取りや滑りの技術を磨くのに適したコース設定も嬉しいポイント。上級者はもちろん、中級者でも挑戦しがいのあるバックカントリーエリアと言えるでしょう。
こうした条件がそろい、初心者から経験者まで幅広く楽しめるのが西大巓バックカントリーの大きな魅力です。
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