東谷山、雪原の先へ

スノーボード

はじめに

東谷山とは

東谷山(ひがしたにやま)は、新潟県魚沼市と長野県境近くに位置する、標高1,924メートルの山です。近隣の巻機山や越後駒ヶ岳と比べると知名度は高くありませんが、その静けさと奥深さ、そして柔らかく広がる雪原に魅了される人も多い隠れた名峰です。

冬季になると、登山者やスキーヤーの姿はぐっと減り、山全体が静寂に包まれます。ルートには深い針葉樹林帯や、風に削られた開けた雪面など、変化に富んだ表情があり、天気に恵まれれば山頂からは谷川連峰や越後三山の眺望も期待できます。

特にバックカントリーの視点で見ると、東谷山は「登り応えがあり、静かで、雪質も比較的良い」という三拍子が揃った魅力的なフィールド。ラッセルが必要なこともありますが、その分、自分の足で切り拓く感覚が強く、手つかずの自然と向き合える時間が味わえます。

派手さはないけれど、心に深く残る雪山。それが、東谷山です。

3月初旬を選んだ訳

東谷山を訪れるタイミングとして、3月初旬を選んだのにはいくつか理由があります。

まず一つは、雪質と安定性のバランスです。1月〜2月の厳冬期に比べると降雪のピークは過ぎ、3月に入ると天候も比較的落ち着いてきます。もちろん気温の上昇によりザラメ化も進みますが、日によってはまだドライな雪が残っていることもあり、滑走条件としては「運がよければ美味しい」時期でもあります。雪崩のリスクも、安定した天気が続いた後ならば比較的読みやすくなります。

次に、人の少なさです。人気のエリアでは春先にかけて徐々に人が増え始めますが、東谷山のような静かな山域ではまだまだバックカントリー利用者も少なく、ほぼ貸し切り状態になることもしばしば。混雑を避けて、自分たちだけのトレースを刻む体験ができるのも、3月初旬の魅力です。

そして最後に、日照時間。冬至を過ぎて少しずつ日が伸び始めるこの時期は、行動時間にも余裕が生まれます。冷え込みすぎず、かといって雪が緩みすぎない絶妙な季節。それが、3月初旬だったのです。

登山計画と装備

ルート概要(2025年3月8日)

2025年3月8日、天候は快晴。朝の気温は-5℃前後で、日中もそれほど気温は上がらず、終日ドライな雪質が保たれていた。風は稜線でやや吹くものの、行動に支障が出るほどではなかった。

今回は新潟県側の貝掛温泉手前の駐車場から東谷山を目指すルートを選択。スノーシューを使用し、登りに約3時間、下りはわずか40分という、非常に効率の良い行程となった。

序盤は緩やかな林間の登りからスタート。積雪は十分で、ふかふかの新雪が膝下ほど。トレースはなく、終始マイルートを刻む展開となったが、パウダーの感触が心地よく、ラッセルの疲労感は思ったほどではなかった。

森林限界を越えたあたりから展望が一気に開け、真っ白な稜線の先に東谷山の山頂が姿を見せる。風紋の美しい雪面と、吸い込まれるような青空が広がり、まさに「雪原の先へ」という言葉がぴったりの風景。

山頂からの展望は素晴らしく、谷川連峰、巻機山、越後三山の山並みを一望。雲ひとつない空に、山の稜線がくっきりと浮かび上がっていた。

下りはまさにご褒美の時間。パウダーがしっかりと残っており、スノーシューでも快適に滑ることができた。部分的に軽くスライドしながらの下降で、わずか40分で登山口まで一気に戻ることができた。

装備リスト

【登山・滑走用装備】

  • スノーボード(またはスプリットボード)、バックカントリースキー
  • シール(クライミングスキン)
  • BCブーツ(またはスキーブーツ)
  • ストック(伸縮式)
  • アイゼン(急登や氷結部分対策)
  • ピッケル(滑落防止用/稜線用)
  • バックパック(30〜40L程度)
  • ヘルメット(滑走時・落石対策)

【安全装備】

  • ビーコン(雪崩対策)
  • プローブ(ゾンデ棒)
  • ショベル
  • ファーストエイドキット
  • ヘッドライト(予備電池込み)

【ウェア・防寒装備】

  • シェルジャケット・シェルパンツ(防風・防水)
  • ミッドレイヤー(フリースまたはインサレーション)
  • ベースレイヤー(吸汗速乾性)
  • グローブ(予備も含めて2組)
  • バラクラバ
  • サングラス(標高による紫外線対策)
  • ゴーグル(滑走時用)

【その他・行動装備】

  • 行動食・補給食(ジェル、ナッツ類など)
  • 水分(ハイドレーションまたはボトル)
  • モバイルバッテリー(スマートフォン用)
  • 地図・GPS端末(アプリ併用)
  • 登山届の提出(事前提出または登山口提出)

当日の天候とコンディション

気温、風、天気

当日の気象条件は、まさに理想的なバックカントリー日和だった。

気温は朝の段階で-4℃ほど。日中も氷点下前後をキープし、極端な寒さはなく、それでいて雪は終日ドライな状態を保っていた。歩いていると程よく汗ばむ程度で、レイヤリングの調整次第で快適に行動できた。

風は終始微風で、特に森林帯ではほとんど無風。稜線に出ても頬を撫でるような柔らかい風が吹く程度で、立ち止まっての休憩や写真撮影も苦にならなかった。

そして何よりも印象的だったのが、雲ひとつない快晴の空。終始青空が広がり、真っ白な雪面とのコントラストが見事だった。木々の影が雪面にくっきりと落ち、稜線に出ると遠くの山並みまで視界が抜け、心が洗われるような時間となった。

雪山において、自然は時に厳しくもあるが、この日はその優しさと美しさに包まれた一日だった。

雪の状態

この日の雪質は終始パウダー。前日までの降雪により、全体的にふかふかの新雪が積もっており、スノーシューでもしっかりと沈み込む感触があった。

登りでは膝下〜脛ほどの深さで、軽くラッセルを強いられる場面もあったが、雪が軽いため負担は少なく、足運びは比較的スムーズ。トレースのない静かな斜面に、自分のラインを刻む楽しさがあった。

稜線に近づくと風に飛ばされてクラスト気味かと身構えたが、意外にも雪は締まりすぎず、稜線上でも柔らかさが保たれていた。風紋の模様が美しく、視覚的にも楽しめる雪面だったのが印象的だった。

下りはまさに極上。スノーシューでも気持ちよく滑れる、軽く乾いたパウダーが斜面を覆い、ブレーキのかかりすぎない絶妙な雪質。スキーであれば浮力も得やすく、爽快な滑走が楽しめたはず。スノーシューでも部分的に「滑り降りる」感覚を味わえる、上質な雪だった。

全体として、パウダー狙いで東谷山を訪れたとすれば「大当たり」と言える一日だった。

登攀記録

登山口スタート

スタートは貝掛温泉手前の駐車スペースから。舗装路の除雪はされていたものの、駐車できるのは数台分のみ。今回は運よく空いていたが、ハイシーズンは早めの到着が安心だと感じた。

車を降りると、朝の空気はピンと張りつめていて、雪面にはまだ誰の足跡もない。辺りは静まり返っており、温泉地のすぐそばとは思えないほどの山の静寂が漂っていた。

スノーシューを装着し、ザックのストラップを締め直す。空には雲ひとつなく、朝日が樹間から差し込む。雪は軽く、足を踏み出すたびにサクッと乾いた音が返ってくる。

静かな雪の森へ、自分たちだけのトレースを刻むようにして、東谷山への登りが始まった。

登りの様子

貝掛温泉手前の駐車場を出発してから、最初は緩やかな樹林帯の中を進んだ。積もったパウダーが膝下ほどあり、スノーシューでも沈み込む感覚を楽しみながら、一歩一歩確実に登っていく。

トレースはほとんどなく、自分たちの足跡だけが雪面に続いている。息は徐々に上がってくるが、冷たい空気が肺を満たし、逆に清々しさを感じさせた。時折、枝に積もった雪が風に揺れて舞い落ち、静かな森に軽やかな音を響かせる。

高度を上げるにつれて、樹木の背丈が低くなり、視界が開けてくる。開けた斜面に出ると、一面の雪原が広がり、遠くの山々が青空の下でくっきりと姿を見せていた。凍てつく風が顔を撫でるが、寒さは心地よい刺激となり、ペースを崩すことなく歩みを進める。

最後の急斜面はやや息が切れたが、パウダーの柔らかさに助けられ、思ったよりも楽に登り切ることができた。山頂が近づくにつれ、背中のザックが少しずつ重く感じられたが、景色の素晴らしさが疲れを忘れさせてくれた。

山頂到達

約3時間の登りを経て、ついに東谷山の山頂に到達した。周囲は一面の銀世界が広がり、澄み渡る青空の下、360度の大パノラマが迎えてくれた。

眼前には谷川連峰の険しい稜線が連なり、その奥には巻機山や越後三山の雄大な山並みが遠くまで広がっている。雪に覆われた山々の白さが太陽の光を受けて輝き、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚に包まれた。

風はほとんどなく、静寂が山頂を満たしていた。冷たい空気の中に漂う雪の匂いが、冬山の厳しさと美しさを物語る。疲れも忘れ、しばしその場に立ち尽くし、深呼吸を何度も繰り返した。

この瞬間、東谷山を選び、苦労して登ってきたすべてが報われたと感じた。雪原の先に広がる静かな山の世界は、自分にとって特別な場所となった。

滑走記録

滑走ルートの選定

滑走ルートの選定は、安全性と雪質を最優先に考えながら決定した。

まず山頂からの斜面は広く開けており、風の影響で雪面の状態が変わりやすいため、パウダーが豊富に残る斜面を慎重に見極めた。特に風下側は雪が飛ばされてクラストしやすいので、風上側の比較的ふかふかのパウダーが残るルートを選択した。

また、下部に向かうにつれて斜度が緩み、障害物も少ない樹林帯の端を滑るコース取りとした。これにより安全にスピードをコントロールしやすく、スノーシューでの滑走でも安心感があった。

雪崩の危険性についても事前に積雪の安定性を確認し、滑走中は常に周囲の状況に注意を払った。特に急斜面の上部では慎重にラインを選び、無理のないルート取りを心がけた。

結果として、滑走ルートは快適なパウダーゾーンを十分に楽しめると同時に、安全面でも問題のないバランスの良い選択となった。

雪質とラインの感想

この日の雪質は理想的なパウダーで、まさに滑走者の夢のような状態だった。新雪のふかふか感が足元にしっかりと伝わり、スノーシューでの滑走でもしっかりと浮力を感じることができた。雪面は柔らかく軽やかで、まるで雲の上を滑っているかのような感覚が味わえた。

滑走ラインは山頂から続く広大な斜面を意識的に選び、できるだけパウダーが残る風上側をトレース。時折クラスト気味の硬い部分もあったが、全体としては滑りやすく、ライン取りに自由度があったのが嬉しかった。

曲線を描く滑走ラインは、斜面のうねりや起伏に呼応しながらもスムーズで自然。自分の動きに雪がしっとりと寄り添うような感覚があり、滑る楽しさを存分に味わえた。

特に斜度が緩くなる下部では、雪の密度がやや増したザラメ質に変わったものの、コントロールしやすく安心してラインを引けたのも好印象だった。

総じて、この日の雪質と滑走ラインは、まさにパウダーライディングの醍醐味を体現した素晴らしい体験となった。

振り返りと反省点

良かった点

・雪質が理想的なパウダーで、登りも滑走も快適だった。
・駐車場が利用しやすく、アクセスが良好だった。
・トレースの少ない静かなルートで、自分たちのペースで歩けた。
・天候に恵まれ、快晴で視界が抜群だったため、景色を存分に楽しめた。
・滑走ルートの選定が的確で、安全かつ爽快な滑りが実現できた。
・標高差や斜度のバランスが良く、スノーシュー登山として程よい達成感が得られた。

全体を通して、充実したバックカントリー体験となり、また訪れたいと思える山行だった。

改善すべき点

・駐車スペースが限られているため、繁忙期には早めの到着や代替駐車場の確認が必要と感じた。
・登り始めのトレースが薄く、深雪でのラッセルに時間と体力を多く使った場面があった。事前のルート確認や装備の準備をより徹底したい。
・滑走ルート選定時に、一部クラストした雪面が予想以上に硬く、ライン取りに慎重を要した。今後は積雪状況の変化をさらに注意深く観察する必要がある。
・山頂付近は風が弱かったが、稜線上は冷え込みが厳しく、休憩時の防寒対策をより強化したい。
・下山の滑走時間が短かったため、もう少しロングランを楽しめるルート検討も課題と感じた。

これらを踏まえて、次回はより安全で快適な山行となるよう準備を重ねていきたい。

まとめ

東谷山バックカントリーの魅力

東谷山バックカントリーの最大の魅力は、手つかずの雪原と静寂に包まれた自然の美しさだ。訪れる人が少なく、トレースのない新雪を自分の足で刻みながら進む感覚は、まさにバックカントリーの醍醐味そのものだ。

山頂から望む360度のパノラマは圧巻で、雪に覆われた山々が織りなす雄大な景色は、心を大きく開放してくれる。晴天の日には、遠くの谷川連峰や巻機山まで見渡せ、登りの疲れを忘れさせる感動が味わえる。

雪質も良好で、ふかふかのパウダーを滑る爽快感は格別。スノーシューでの歩行も滑走も楽しめる、バランスの取れた山だ。

また、アクセスの良さもポイント。貝掛温泉近くの駐車場からスタートできるため、日帰りで気軽に冬山の非日常を味わいたい人にもおすすめだ。

自然の静けさと美しさ、安全で多様なルートが揃う東谷山は、バックカントリースキーやスノーシュー初心者から上級者まで幅広く楽しめる、魅力あふれるフィールドである。

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