GW後半、燧ヶ岳を滑る

スノーボード

はじめに

燧ヶ岳とは

燧ヶ岳(ひうちがたけ)は、福島県南会津郡檜枝岐村と群馬県利根郡片品村にまたがる、標高2,356mの活火山で、東北地方の最高峰でもあります。尾瀬国立公園の象徴的な山のひとつで、尾瀬ヶ原や至仏山と並び、山岳風景の美しさで知られています。

山頂は「柴安嵓(しばやすぐら)」と「俎嵓(まないたぐら)」の二つのピークから成り、それぞれの頂からは、晴れていれば至仏山、会津駒ヶ岳、さらには日光連山まで一望できます。

夏はハイカーやファミリー登山の名所としてにぎわいますが、積雪期から春にかけては登山者がぐっと少なくなり、静けさの中で広大な雪原や山岳の景色を楽しめるバックカントリーの魅力が広がります。とくにGW前後は、残雪と青空のコントラストが美しく、熟練者にとっては格別のシーズンです。

GW後半を選んだ理由

燧ヶ岳を訪れるにあたって、GW後半を選んだ最大の理由は、「御池登山口までの道路がようやく開通した直後」だったからです。

例年、御池までのアクセスは冬季閉鎖されており、春先はまだ雪に閉ざされています。2025年も開通はGWの中頃。この時期を逃すと、登山口に車でアクセスできる期間が非常に限られてしまうため、まさに“行くなら今しかない”というタイミングでした。

道路開通直後の燧ヶ岳は、アクセスが良くなったとはいえ、まだ訪れる人も少なく、静けさと残雪の景観をじっくり味わえる貴重な期間です。新雪ではなく、春特有のザラメ雪が広がる中、登りも滑りも安定感があり、バックカントリーを楽しむには理想的な条件がそろっていました。

天候も比較的安定しやすく、長距離移動のハードルも下がるGW後半。このタイミングを狙って行動するのは、春山好きにとっては定番の一手です。

登山計画と装備

ルート概要(2025年5月5日)

今回のルートは、御池登山口から入り、燧ヶ岳の主峰・俎嵓(まないたぐら)をピストンする残雪期の定番コース。比較的短時間ながら、残雪の尾瀬らしい広大な雪原や展望を楽しめる好ルートです。

  • 07:30|御池登山口 出発
     – 除雪直後の開通でアクセス良好。静かな朝のスタート。
  • 07:35|スノーシュー装着(またはシール装着)
     – 樹林帯に入り、雪が安定してきたところで装着。
  • 10:09|熊沢田代 到着(標高約1,950m)
     – 約2時間半の登り。視界が一気に開け、尾瀬ヶ原や周囲の山々を望む雪原に出る。
  • 10:11|熊沢田代 出発
     – 小休憩後、稜線に向けてさらに登高。
  • 11:41|俎嵓(まないたぐら)山頂 到着(標高2,346m)
     – 残雪に覆われた稜線と山頂からの展望を満喫。至仏山、会津駒ヶ岳、日光連山などが見渡せる好天。
  • 13:11|俎嵓 出発
     – 山頂での休憩・昼食を経て下山開始。
  • 13:44|広沢田代 到着
     – 穏やかな斜面を下りながら、春雪の滑走を楽しむ。
  • 13:45|広沢田代 出発
     – 最後の緩斜面を抜けて登山口へ。
  • 14:11|御池登山口 帰着
     – 無事下山。全体の行動時間は約6時間40分。

YAMAP → 【日本百名山】燧ケ岳(俎嵓) 雪山登山【バックカントリー】 / HAL9000さんの尾瀬・燧ヶ岳の活動データ | YAMAP / ヤマップ

装備リスト

【登山・滑走用装備】

  • スノーボード(またはスプリットボード)、バックカントリースキー
  • シール(クライミングスキン)
  • BCブーツ(またはスキーブーツ)
  • ストック(伸縮式)
  • アイゼン(急登や氷結部分対策)
  • ピッケル(滑落防止用/稜線用)
  • バックパック(30〜40L程度)
  • ヘルメット(滑走時・落石対策)

【安全装備】

  • ビーコン(雪崩対策)
  • プローブ(ゾンデ棒)
  • ショベル
  • ファーストエイドキット
  • ヘッドライト(予備電池込み)

【ウェア・防寒装備】

  • シェルジャケット・シェルパンツ(防風・防水)
  • ミッドレイヤー(フリースまたはインサレーション)
  • ベースレイヤー(吸汗速乾性)
  • グローブ(予備も含めて2組)
  • バラクラバ
  • サングラス(標高による紫外線対策)
  • ゴーグル(滑走時用)

【その他・行動装備】

  • 行動食・補給食(ジェル、ナッツ類など)
  • 水分(ハイドレーションまたはボトル)
  • モバイルバッテリー(スマートフォン用)
  • 地図・GPS端末(アプリ併用)
  • 登山届の提出(事前提出または登山口提出)

当日の天候とコンディション

気温、風、天気

この日の午前中は全体的に薄曇りで、太陽は雲越しにぼんやりと感じられる程度でした。強い日差しもなく、登りの行程では暑すぎず寒すぎず、行動中は非常に快適な気温でした。汗ばむこともあまりなく、春山らしい穏やかなコンディションだったと言えます。

標高を上げ、熊沢田代を越えて山頂が近づくにつれて、次第に空が晴れ始め、俎嵓に到着する頃には青空が広がりました。雲の切れ間から差し込む光と、白く輝く残雪のコントラストが印象的でした。

風については、全体的には穏やかでしたが、山頂付近ではやや強めの風が吹いており、立ち止まると少し肌寒さを感じる程度。ただし行動中はとくに支障となるような強風ではなく、春の残雪期としては非常に安定した気象条件に恵まれた一日でした。

雪の状態

登りの時間帯は気温がそれほど上がっておらず、雪は全体的に締まった固めの状態でした。特に樹林帯では踏み抜きも少なく、シール(またはスノーシュー)の効きもよく、安定した登高ができました。

山頂での休憩を挟み、下山・滑走に入る頃には日差しが出て気温も上がり、雪は次第に緩み始めました。特に広沢田代以降の開けた斜面ではザラメ雪が適度に湿っており、板の走りも良好。春らしい雪質となり、滑走中は終始気持ちよく滑ることができました。

午前中の締まった雪から午後の緩んだザラメまで、時間によって変化する春雪の特徴がはっきりと感じられた一日でした。

登攀記録

登山口スタート

7時30分、御池登山口を出発。駐車場には思ったより多くの車が停まっており、バックカントリーを楽しんでいるスキーヤーたちの姿が目立ちました。周囲に広がる雪景色と、山の静けさの中に活気が感じられます。

スキーシーズンほぼ終わっているということもあり、数少ないバックカントリーができる燧ヶ岳を目指す登山者やスキーヤーたちが集まり、登山口周辺は賑わいを見せていました。雪の状態を確認しつつ、早速シールを装着して登山道に取りかかります。最初の数分は平坦な道を歩きながら、雪面の硬さや斜度をチェックしつつ進みました。

空気が清々しく、早朝の静かな山の空気を楽しみながら、ゆっくりと標高を上げていきます。

登りの様子

御池登山口を出発し、最初の樹林帯を進むと、雪はしっかりと締まっており、シールの効きが良く、順調に登り始めました。最初は穏やかな斜面が続き、ペースも安定していましたが、途中から何度か斜度がかなり急な箇所が現れました。特に雪が少しズルズルと崩れるような場所では、足元に注意を払いながら慎重に登る必要がありました。

それでも、雪質が安定しているため、シールの効果でスムーズに登れる場面も多く、しっかりと足を踏みしめながら進んでいきました。急斜面を越えた後は、少し緩やかな斜面に出て、休憩を取りながら次の難所に備えることができました。

標高が上がるにつれ、視界も広がり、尾瀬ヶ原や周囲の山々の景色が美しく開けてきました。景色に見とれつつも、雪の崩れや急な斜面に気をつけながら、順調に登り続けました。

山頂到達

11時41分、ようやく俎嵓(まないたぐら)の山頂に到達。登りの途中、何度か急な斜面や雪が崩れやすい箇所がありましたが、それを乗り越えて、ここまで来た達成感は格別でした。山頂からの360度のパノラマビューは見事で、尾瀬ヶ原や至仏山、会津駒ヶ岳、日光連山まで広がる美しい景色が広がっていました。青空が広がり、残雪を抱えた山々が輝いて見え、思わず息を呑むほどの壮大な光景でした。

山頂では風が少し強く感じられましたが、それでも気温は程よく、登山道からの疲れを癒やしてくれる心地よい空気でした。周囲には他の登山者の姿もちらほらと見かけ、皆それぞれのタイミングで山頂を楽しんでいる様子が印象的でした。

ここでしばらく休憩を取り、昼食を楽しみながら、広がる景色をゆっくりと堪能。春の山の静けさと新緑を感じながら、山頂での貴重な時間を過ごしました。

滑走記録

滑走ルートの選定

山頂での休憩後、いよいよ下山に向けての滑走ルートを選定。広大なオープンバーンでは、どこでも滑れる状態でしたが、駐車場に戻るためには最適なルートを選ぶ必要がありました。雪質は午後の気温上昇により、ザラメ雪が程よく緩み、滑りやすくなっていました。

滑走中、自然に引かれる斜面や雪面を見つつも、駐車場に向かうためには左方向へ進んでいく必要がありました。広沢田代方面へ下るルートを選ぶと、左に向かうことができるため、その方向を目指して滑り始めました。オープンバーンを自由に滑りつつ、雪の状態や傾斜を見極めながら、徐々に左に角度をつけて進んでいきました。

急な斜面や雪崩のリスクを避けるため、比較的緩やかな斜面を選んで安全を確保しながら、駐車場に向かうルートへと続く滑走を楽しみました。終始スムーズな滑りができ、目標の方向にしっかりと向かって進むことができました。

雪質とラインの感想

滑走を始めると、午前中の硬めの雪とは打って変わり、午後のザラメ雪が程よく緩み、非常に滑りやすい状態に。雪質は適度に湿り気を帯びており、板が雪面にしっかりと食い込み、安定した滑走感が楽しめました。広いオープンバーンでは、雪質が良好なためライン取りに自由度があり、どこを滑っても楽しい感触が広がっていました。

ただし、数回ある急斜面では注意が必要でした。雪が緩んでいる部分もあったため、急斜面を滑る際には特にスピードのコントロールに気を使い、足元の雪質をしっかり確認しながら慎重に滑る必要がありました。急斜面では、ザラメ雪が少し滑りやすくなるため、ターンやブレーキをしっかりと決めることが求められました。これらの急斜面を越えることで、より一層雪質やライン選定の重要性を感じました。

それでも、オープンバーンでは雪質が安定しており、自由にラインを取れる余裕があったため、全体としては安全に楽しむことができました。急斜面をうまく避けながら、広沢田代方面へ向かって順調に滑り続けることができました。

振り返りと反省点

良かった点

燧ヶ岳でのバックカントリーで特に良かった点は、貴重なGW後半に滑れる山であったことです。山頂付近ではまだ雪質が安定しており、シーズンの締めくくりとして素晴らしいタイミングでした。百名山のひとつである燧ヶ岳を滑ることができたのも、大きな魅力のひとつです。百名山ならではの雄大な景色とその存在感を肌で感じながら、滑走するのはとても特別な体験でした。

また、広いオープンバーンを思いっきり滑れるのも、この山ならではの楽しさです。雪質が安定しており、広大な雪原を自由に滑ることができる開放感は、バックカントリーならではの醍醐味でした。どこでも滑れるという自由度があり、心ゆくまでラインを選んで滑る楽しさを堪能できました。

更に、急斜面やトラバースを避けながらも、雪質が安定していたおかげで、安心して楽しめたことも大きなポイントです。すべての要素がうまく噛み合い、今回の滑走が本当に素晴らしいものとなりました。

改善すべき点

今回のバックカントリーで注意すべき点として、急斜面でスピードを出しすぎてしまったことがあります。滑りやすいザラメ雪の中で、ついスピードが出てしまい、結果的にツリースポットに突っ込んでしまいました。枝や木に当たって痛い思いをし、体力的にも精神的にも少し疲れてしまいました。

急斜面では、やはりスピードのコントロールが非常に重要だと痛感しました。あの時は自分のペースをしっかり守り、雪質を確認しながら慎重に滑るべきだったと反省しています。今後は急斜面を滑る際には、もっとスピードを抑え、事前にルートをしっかりと確認しながら、安全第一で滑ることを心がけたいと思います。

まとめ

燧ケ岳バックカントリーの魅力

燧ケ岳のバックカントリーは、その壮大な景色と自由度の高い滑走体験が最大の魅力です。百名山のひとつとして、登山者にとっても特別な意味を持つ山であり、バックカントリーの滑走ではその素晴らしい自然をダイレクトに感じながら、雪山の醍醐味を味わうことができます。

広大なオープンバーンは、雪質が安定しており、自由にラインを取ることができるため、滑走者にとってはまさに楽園のような場所です。特に、広沢田代方面へ向かって滑り降りる際には、開放感があり、どこでも滑れる贅沢な感覚を味わうことができます。また、視界が広がるにつれて見渡す限りの美しい雪景色が広がり、滑ること自体が心のリフレッシュとなります。

さらに、燧ケ岳はアクセスが良好で、登山口からの距離や標高差が適度で、バックカントリー初心者でも挑戦しやすい山です。雪質が安定しており、スノーシューやシールでの登りも無理なく進め、上り下りのバランスが取れているのも魅力です。

そして、山頂からの360度のパノラマビューは、登山者やスキーヤーにとって、登頂後の最高のご褒美。尾瀬ヶ原や至仏山、会津駒ヶ岳など、周囲の山々が一望でき、その美しさに圧倒されます。百名山を滑るという特別感とともに、燧ケ岳バックカントリーは何度でも訪れたくなる魅力に満ちた場所です。

YAMAP → 【日本百名山】燧ケ岳(俎嵓) 雪山登山【バックカントリー】 / HAL9000さんの尾瀬・燧ヶ岳の活動データ | YAMAP / ヤマップ

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