はじめに
光岳とは

光岳は日本百名山にも選ばれているものの、そのアクセスの困難さから登山者の数は多くありません。いわゆる“百名山の中でも秘境”と呼ばれる山のひとつであり、静寂な山歩きを楽しめる稀有な存在です。
山頂からの展望はそれほど開けていませんが、稜線に出ると聖岳や茶臼岳、さらには南アルプスの雄大な山々が顔をのぞかせ、南部アルプスならではの静かで力強い風景が広がります。
また、光岳付近は豊かな植生と動物の宝庫でもあり、ライチョウやカモシカなどに出会えることもあります。自然環境の厳しさと美しさを同時に感じさせてくれる、まさに“静けさの中に光る山”です。
聖岳とは

標高3,000mを超える山としては南アルプスの最南端にあたり、周囲に視界を遮るものが少ないため、山頂からは赤石岳、荒川三山、さらには遠く富士山や南アルプス南部の稜線までを一望する絶景が広がります。
登山口からは長いアプローチが続き、気軽に登れる山ではありませんが、その分、人の少ない静かな山旅が楽しめるのも魅力のひとつ。聖岳山頂への道のりは厳しくもあり、美しくもあり、山の奥深さを感じさせてくれます。
また、聖岳という名は古くから山岳信仰の対象として崇められてきたことに由来するともいわれています。自然と対話し、心を整えるような時間を過ごせる山、それが聖岳です。
登山の目的・選んだ理由

今回の登山の目的は、静かな南アルプス南部の稜線をじっくり味わいたいという想いからでした。登山を続ける中で、メジャーな百名山や人の多い山域では得られない、“深い山”ならではの空気や雰囲気に惹かれるようになり、次第に南アルプス南部、特に光岳から聖岳への縦走路に興味を持つようになりました。
光岳と聖岳はともに百名山ではありますが、アクセスの難しさや行程の長さから、登山者の数は比較的少なく、静けさを求める登山者にとってはまさに理想的なルート。特に、南アルプスの稜線を縦走する中で、3,000m級の聖岳をゴールとする行程には達成感があり、長い山旅の締めくくりにふさわしいと感じました。
また、光岳から聖岳への縦走は、標高2,000〜3,000mの稜線を長く歩くため、南アルプスの自然や生態系をじっくり観察できるのも魅力のひとつ。人の手があまり入っていない原生的な雰囲気も、この山域ならではの魅力です。
「静かで、長くて、深い」——そんな登山をしたくて、この縦走ルートを選びました。
アクセス・登山ルート
使用ルート
今回の縦走は、芝沢ゲートから光岳を経て、聖岳を越えて便ヶ島へ下山する南アルプス南部の縦走ルートを選びました。静けさと奥深さが魅力の南部アルプスを満喫できる、3日間にわたる本格的な縦走です。
【1日目】芝沢ゲート〜易老岳〜光岳

初日は、芝沢ゲート駐車場を出発し、林道を歩いて易老渡から登山道に入ります。道中には弁天岩や三角点を経て、標高差約1,400mを一気に登る体力勝負の一日。
易老岳を越えると稜線歩きとなり、三吉平やイザルガ岳などを経由しながら、ようやく光小屋に到着。テントを設営した後、夕方には光岳山頂と光石まで足を延ばし、達成感のある一日となりました。

- 行動時間:約13時間
- 累積登り:約1,969m
- 距離:約21.3km
【2日目】光岳〜茶臼岳〜上河内岳〜聖岳〜聖平小屋

2日目は、早朝に光岳を後にし、長い稜線歩きを開始。希望峰や仁田岳、茶臼岳、上河内岳と、標高2,600〜2,800m前後の山々を次々と越えていきます。
南岳を越えると、ようやく聖平小屋が見えてきますが、ここで休まずそのまま聖岳アタックへ。小聖岳を経て、堂々たる聖岳(前聖岳)と奥聖岳に登頂。稜線のスケール感と展望はこの旅のハイライトでした。

- 行動時間:約12時間
- 累積登り:約1,700m前後
- 稜線からの眺望が絶品
【3日目】聖平小屋〜便ヶ島〜芝沢ゲート

最終日は、聖平小屋から一気に下って便ヶ島を目指します。深い樹林帯を抜け、苔平や大木の広場といった印象的な地形を経由。下山道は長く、終盤は足に疲労がたまりますが、静かな森の雰囲気に癒されながらの下山となりました。

- 行動時間:約5時間
- 累積下り:約1,900m以上
- ゴールの便ヶ島から芝沢ゲート駐車場までは徒歩で戻れます(約30分)
登山口までのアクセス方法
今回の縦走は、静岡県側の芝沢ゲート駐車場を起点とし、光岳から聖岳を縦走したのち、便ヶ島へ下山し、芝沢ゲートまで林道を歩いて戻る一周ルートを採用しました。登山口と下山口が近接しているため、車の回収も不要で、マイカーでのアクセスに向いたプランです。

アクセスにはマイカー利用が基本です。静岡県飯田市方面から国道152号を経由し、「しらびそ高原」や「下栗の里」方面へ。途中で分岐し、「易老渡」や「便ヶ島」方面へ向かう林道・易老渡線に入ります。この林道は狭く、ガードレールがない箇所や落石・崩落箇所もあり、通行には十分な注意と慎重な運転が必要です。

駐車は、林道終点手前にある**芝沢ゲート駐車場(数台分のスペースあり)**を利用しました。週末や連休は混雑が予想されるため、早めの到着がおすすめです。なお、トイレは芝沢ゲートにはなく、途中の「便ヶ島」や「しらびそ高原」周辺の公衆トイレを利用する必要があります。
縦走後は、便ヶ島に下山し、そこから芝沢ゲートまでは徒歩で約30〜40分ほど林道を戻る形になります。距離は約2.5kmで、疲れた足には少々こたえますが、アップダウンは少なく、無理なく歩ける道です。
登山レポート
「聖なる稜線」へ——光岳から歩いた静けさの縦走路

南アルプス南部。人里から遠く離れた深い森の奥、静けさが支配するその世界に、光岳と聖岳を結ぶ稜線はひっそりと横たわっています。今回歩いたこのルートは、登山というよりも、“山の中に溶け込む旅”のような時間でした。
初日は、芝沢ゲートから易老渡を経て光岳へ。スタート直後から標高差1,500mを一気に登り上げる体力勝負の行程ですが、すれ違う登山者もまばらで、静まりかえった原生林の中を、ただ自分の足音だけを頼りに進む時間は、都市の喧騒をすべて洗い流してくれるようでした。光岳の山頂に立つ頃には、遠く茶臼岳から聖岳にかけての稜線が夕暮れに染まり始め、これから始まる縦走路のスケールを改めて感じさせてくれます。

2日目、光岳をあとにして稜線に踏み出すと、そこには期待以上の静けさと広がりが待っていました。茶臼岳、上河内岳、南岳…どこまでも続く山なみ。山々はどこまでも穏やかで、風と鳥の声、そして自分の鼓動だけが響く時間。目の前に徐々にその存在感を増していく聖岳が、まるで“導かれているような気持ち”にさせてくれます。
そして、縦走の締めくくりとなる聖岳の山頂では、眼下に広がる南アルプスの奥深さと、自分が歩いてきた道の長さに心を打たれました。名の通り、どこか“聖なるもの”を感じる風景。厳しい行程のなかに確かな静けさと美しさがあり、それがこの縦走の最大の魅力でした。
人の少ない南アルプス南部の稜線は、決して派手さはありませんが、だからこそ一歩一歩が深く、心に刻まれる。光岳から聖岳へと続くこの道は、静けさの中にある圧倒的なスケールと祈りのような風景を感じさせてくれる、まさに“聖なる稜線”でした。
孤高の峰々へ。静寂と荘厳の縦走、光岳から聖岳へ

南アルプス南部の深い山懐に抱かれた光岳と聖岳。その峰々は、まるで孤高の巨人のように、静けさの中に堂々とそびえ立っています。今回歩んだ縦走路は、ただの登山路ではなく、自然の雄大さと自分自身の存在を静かに見つめ直す旅でもありました。
芝沢ゲートから始まる長いアプローチは、次第に周囲の世界から切り離される感覚をもたらします。人の声も消え、聞こえるのは風が木々を揺らす音と、時折響く野鳥のさえずりだけ。重厚な原生林を抜け、登るほどに展望が開けていく稜線。光岳の山頂に立った瞬間、その孤高の姿に圧倒され、訪れた者を拒むかのような厳しさと、同時に自然の美しさに心を奪われました。

そして縦走の先に控える聖岳。3,000メートルを超えるその峰は、荒々しくも神秘的な表情を見せ、山頂からの眺望はまさに荘厳の一言。遥か遠くに連なる南アルプスの峰々が織りなす絶景は、言葉を失うほどの圧巻でした。
この縦走は、人里離れた静寂の世界へ踏み入ることで、自然の懐の深さと自分自身の小ささを思い知らされる体験。孤高の峰々が放つ厳粛な空気と、静けさの中で得た内なる静寂が、登山の価値をより一層深めてくれました。
まとめ

光岳から聖岳への縦走は、南アルプス南部の静けさと雄大さを存分に味わえる貴重な体験でした。人の少ない深山の稜線を歩くことで、自然の息づかいを間近に感じながら、自分自身と向き合う時間を持てたことが何よりの収穫です。
アクセスの難しさや長い行程は確かに体力と計画性を要求しますが、その分だけ得られる充実感や達成感は格別。光岳の荘厳な岩場、聖岳の堂々たる山頂から望む360度の大展望、そして途中で出会った静寂な森や野鳥たちが心に深く残りました。
今回の縦走で得た経験は、山旅の新たな魅力を教えてくれただけでなく、また違った季節や周辺の山々にも足を伸ばしてみたいという意欲をかき立ててくれました。次は荒川三山や赤石岳といった南アルプスの名峰にも挑戦し、さらに深い自然の世界を味わいたいと思います。
静けさと孤高の峰々が織りなすこのルートは、挑戦する価値のある特別な山旅。ぜひ、自然と自分自身の静かな対話を求める登山者におすすめしたい、そんな縦走路です。
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