はじめに
羅臼岳とは

北海道・知床半島の中央にそびえる**羅臼岳(らうすだけ)**は、標高1,661mの活火山であり、知床連山の最高峰、そして日本百名山のひとつに数えられています。世界自然遺産・知床の中でも特に存在感を放つこの山は、晴れた日にはオホーツク海から国後島まで一望できる、まさに「地の果ての絶景」を抱く山です。
山頂までのルートは岩尾別温泉(斜里町側)や羅臼温泉(羅臼町側)からアプローチでき、日帰りも可能ですが、登山道は急登が続き、特に天候の変化やヒグマとの遭遇リスクもあるため、準備と注意が必要です。
知床の大自然を肌で感じられる山旅として、多くの登山者を惹きつけてやまない羅臼岳。ですが今回の私は…その絶景とは出会えず、真っ白な世界の中を歩くことになりました。
登山の目的・選んだ理由

今回の羅臼岳登山は、北海道旅行のついでに、前から気になっていた百名山のひとつに登ってみようと思い立ったのがきっかけでした。
ちょうど道東方面を巡る旅の途中で、知床に立ち寄る予定があり、「それなら羅臼岳、行けるかも」と計画に組み込むことに。標高はそれほど高くないものの、知床の雄大な自然の中に立つ山として、ずっと気になっていた場所でもありました。
天気はあまり良くなさそうでしたが、せっかくここまで来たからには登っておきたい──そんな思いで、早朝から登山口へ向かいました。
アクセス・登山ルート
使用ルート

今回は、岩尾別温泉の岩尾別登山口から羅臼岳へのピストンルートを選びました。宿泊していた「ホテル地の涯」から出発し、すぐ近くの「木下小屋」を経由して、登山口へは徒歩数分。登山開始は05:16と、まだ薄暗さが残る時間帯でした。
登山道はしっかり整備されており、序盤は樹林帯の緩やかな登りが続きます。途中、07:50ごろに羅臼岳キャンプ指定地(羅臼平)に到着し、そこで少し休憩。そこから先は岩場混じりの急登になりますが、ガスの中でも道標は明瞭で、迷うことなく進めました。
山頂(08:23着)ではやはりガスに包まれており、景色はまったく見えず…。30分ほど粘ってみたものの状況は変わらず、09:05に下山開始。
復路は往路と同じルートを下り、途中の羅臼平で小休止を挟みながら、11:32に岩尾別登山口に無事下山。その後、木下小屋・ホテル地の涯まで歩いて戻り、行動を終えました。
このルートは日帰り可能な中では最も一般的で、登山道の状態も比較的良好です。ただし、ヒグマの生息地でもあるため、事前の情報収集と装備(熊鈴・スプレーなど)はしっかり準備しておく必要があります。
登山口までのアクセス方法

今回利用したのは、斜里町側の「岩尾別登山口」。宿泊先の「ホテル地の涯」や「木下小屋」のすぐ近くに位置しており、登山の拠点として多くの登山者が利用するエリアです。
登山口までは、車でのアクセスが基本です。私は旅行の行程に合わせてレンタカーを利用し、女満別空港から斜里町経由で知床へ向かいました。斜里町からは国道334号線(知床横断道路)を東へ進み、ウトロ市街を抜けてさらに奥へ。途中、「カムイワッカ湯の滝」方面への林道を進むと、ホテル地の涯に到着します。
公共交通を利用する場合は、夏季限定で運行される**「知床自然センター」発のシャトルバスやタクシーの活用が必要**になりますが、本数が限られているため、日帰り登山の場合は車でのアクセスが現実的です。
なお、岩尾別エリアには駐車場スペースもあり、早朝の到着であればスムーズに停められました。ホテルや木下小屋を起点に登ることで、前泊して早朝出発という行動もしやすくなります。
登山レポート
視界ゼロで感じた、熊の恐怖

この日の登山で一番怖かったのは、景色が見えないことではなく、ガスに包まれた中で熊に出くわすかもしれないという不安でした。
登山道は濃いガスに包まれ、視界は10〜20メートルほど。周囲の様子はほとんど見えず、物音もガスに吸われていくような、妙に静かな空気に包まれていました。
そんな中、「もし今、前方に熊がいたら…」「もしすぐ脇の藪に潜んでいたら…」と、想像だけがどんどん膨らんでいきます。
もちろん熊鈴はつけていましたが、この視界の悪さの中では本当に効果があるのか疑わしく感じ、何度も大声を出しながら歩きました。登山道沿いには「熊出没注意」の看板も多く、過去の出没情報を見ていたこともあり、不安は拭えません。
とくに怖さを感じたのは、早朝の樹林帯の中。すれ違う登山者もいない時間帯で、足音も自分の呼吸音も、やけに響くように感じました。
実際には熊に遭遇することはありませんでしたが、「見えない」ということが、これほどの緊張感を生むのかと、あらためて自然の中でのリスクを実感しました。
山頂でも視界ゼロ

そして迎えた羅臼岳の山頂。到着は8時すぎ。登りの途中からすでにガスは濃かったのですが、山頂はそれ以上に真っ白な世界でした。
周囲は完全にホワイトアウト。景色どころか、山頂標識の数メートル先すら霞んで見える状態で、「山頂に着いた!」という達成感よりも、どこか不思議な静けさのほうが印象に残りました。
本来であれば、ここからはオホーツク海や国後島、羅臼岳から続く知床連山の稜線が見えるはず──ですが、この日はただの乳白色の空間。写真を撮っても背景は一面まっ白で、「これ本当に山頂…?」と自分でも確認してしまうほどでした。
風もそれなりにあり、長居するには少し寒く、しばらく粘ってみたもののガスが晴れる気配はなし。結局、山頂滞在は30分ほどで切り上げて下山を開始することに。
「いつかまた、晴れた羅臼岳を見に来よう」──そう心に決めつつ、真っ白な世界をあとにしました。
まとめ
反省と注意点

今回の登山を振り返って感じたのは、天候の変化に対する備えと心構えの大切さです。羅臼岳は標高こそそれほど高くないものの、天気が急変しやすい知床の自然をなめてはいけません。
特に今回のようにガスで視界がほぼゼロの状況では、地図やコンパス、GPSなどのナビゲーション機器を活用しながら慎重に行動する必要があります。視界不良時のルート確認は何度も繰り返し、迷わないよう心掛けましょう。
また、熊の出没情報も多い地域なので、熊鈴や熊スプレーを携帯し、こまめに声を出して自分の存在を知らせることが重要です。今回も視界が悪く音も吸収されがちだったため、より一層の注意が必要だと痛感しました。
服装や装備も、防寒対策をしっかり行い、万一に備えた予備の防水アイテムや食料、ヘッドライトの携帯など、登山の基本を改めて見直すきっかけになりました。
今回の経験を踏まえ、次回はもっとしっかりと天候情報を確認し、余裕をもった計画を立てたいと思います。同じルートを目指す方には、ぜひ慎重な準備と安全第一の登山をおすすめします。
良かった点

今回の登山で特に良かったのは、静かな自然の中をゆったり歩けたことです。ガスに包まれたことで視界は限られましたが、その分、周囲の音や風の感触に集中でき、普段は気づきにくい自然の息づかいをじっくり感じられました。
また、登山道がしっかり整備されていて歩きやすく、道迷いの不安も少なかったのは安心材料でした。山頂までの標識も分かりやすく、悪天候の中でもルートを見失わずに進めたのは大きなプラスです。
さらに、早朝からの行動で、登山口や山中で出会う人も限られており、静かな山歩きを満喫できたのも良い思い出になりました。
最後に、天候には恵まれなかったものの、また来たいと思える山だったこと。自然の厳しさも魅力の一つだと改めて感じる貴重な経験になりました。
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