
はじめに|渡渉の先にある百名山
日本百名山・幌尻岳。
その名を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、長い林道でも急登でもなく「渡渉」だろう。
幌尻山荘ルートは、山に取り付く前から何度も川を渡り、登山者に覚悟を問いかけてくる。
この日は、そんな幌尻岳らしさを存分に味わう一日となった。
幌尻山荘ルートの特徴|登山靴が濡れる前提の道

幌尻山荘ルート最大の特徴は、言うまでもなく渡渉の多さだ。
橋はなく、目の前にあるのはその時々で表情を変える川。
水量、流れ、足場を一つひとつ見極めながら進む必要がある。
登山道というよりも、川と並走し、川を横断し続けるルート。
天候や前日の雨量によって難易度が大きく変わるのも、この山の特徴だ。
渡渉の連続|緊張よりも楽しさが勝る時間

幌尻山荘ルートと聞くと、身構えてしまう人も多いかもしれない。
確かに渡渉の回数は多いが、この日のコンディションでは難易度はそこまで高くなく、落ち着いて対応できる場面がほとんどだった。
流れは比較的穏やかで、足場も見つけやすい。
一歩ずつ確認は必要だが、過度な緊張感はなく、むしろ「次はどこを渡ろうか」と考える時間が楽しい。
沢登りのような感覚で、自然と集中力が高まっていく。
渡渉を終えるたびに感じる小さな達成感。
それが何度も積み重なり、いつの間にかこのルートそのものを楽しんでいる自分がいた。
幌尻岳の渡渉は、恐れるものというより、山旅のアクセントとして記憶に残る時間だった。
幌尻山荘へ|ようやく訪れる「拠点」

数々の渡渉を越え、ようやく辿り着く幌尻山荘。
ここに立った瞬間、まず感じるのは安心感だった。
ここまで無事に来られたこと、そして帰りも同じ道を戻るという事実。
山荘は単なる通過点ではあるが、幌尻岳では特別な意味を持つ場所だ。
山頂へ|ガスの中に立つ幌尻岳

幌尻山荘から先は、いよいよ山頂を目指す登りになる。
樹林帯を抜け、視界が開け始める頃、期待とは裏腹にガスが周囲を包み込み始めた。
山頂直前では、稜線の輪郭も次第に曖昧になり、遠くの景色は完全に姿を消す。
そして辿り着いた幌尻岳山頂。
そこに広がっていたのは、展望ではなく、静かな白の世界だった。

眺望はゼロ。
だが、不思議と落胆はなかった。
長いアプローチと幾度もの渡渉を経て、ここまで来たという事実そのものが、この山の価値だと感じられたからだ。
ガスの中で立つ山頂は、幌尻岳の厳しさと奥深さを象徴しているようだった。
「また来い」と言われているような、そんな余韻を残して山頂を後にした。
下山もまた核心|最後まで続く渡渉

幌尻岳は、登頂して終わりではない。
むしろ本番は下山だと言ってもいい。
疲労が溜まった状態での渡渉は、登り以上に集中力を要求される。
水量が増していないか、足はしっかり動くか。
最後の渡渉を終えた時、ようやく「山から帰ってきた」と実感できた。
おわりに|幌尻岳は「山旅」そのもの

幌尻岳は、ただ標高を稼いで登る山ではない。
川を渡り、天候を読み、判断を重ねながら進む「山旅」だ。
幌尻山荘ルートは厳しくもあるが、それ以上に記憶に残る。
簡単じゃないからこそ、また思い出してしまう。
そんな不思議な魅力を持った一座だった。


コメント