朝の空気が少しだけ冬の匂いをまといはじめた、11月の初め。
山々は紅や黄に染まり、秋の終わりを静かに告げています。
そんな季節の移ろいを感じたくて、日本百名山のひとつ「高妻山」へ登ってきました。
信仰の山としても知られる高妻山。
険しさのなかに凛とした静けさがあり、歩くほどに心が澄んでいくような感覚。
今回の登山では、秋色に染まる稜線と澄み渡る空の美しさ。
晩秋の空気をまとった高妻山の1日を、写真とともに振り返ります。
1.高妻山ってどんな山?
基本情報

高妻山(たかつまやま)は、長野県にある標高2,353メートルの山で、戸隠山系の主峰として知られています。
その険しい山容と深い信仰の歴史から「修験の山」として古くから親しまれ、日本百名山にも選ばれています。
山域は妙高戸隠連山国立公園に含まれ、豊かな自然と四季折々の景観が魅力。
特に秋は、ブナやカエデが鮮やかに色づき、稜線から望む山々の紅葉が絶景です。
コースは岩場や急登も多く、体力が試されるルートですが、その分達成感は格別。
静けさと荘厳さをあわせ持つ、登る者の心を揺さぶる名峰です。
修験の山としての歴史

高妻山は、古くから山岳信仰の対象とされ、修験道の霊山として知られています。
隣接する戸隠山とともに、「戸隠修験」の中心地として栄え、多くの行者たちがこの山を修行の場として登ってきました。
特に有名なのが、登山道に並ぶ「十三仏」の石仏たち。
不動明王をはじめとする十三体の仏を一体ずつ巡拝しながら登っていくことで、修行の道をたどることになります。
そのため登山者の間では「高妻山=信仰の山」というイメージが強く、
ただの登山以上の、どこか精神的な深さを感じるという声も多いです。
険しい道のりに心を落ち着け、ひとつひとつの仏に手を合わせながら進む道は、
現代の私たちにとっても、自分と向き合う静かな時間を与えてくれるように感じました。
難易度や人気の理由

高妻山は、戸隠連峰の中でも特に険しい山として知られており、登山初心者には少々ハードルの高い一座です。
コースの大部分が急登で、岩場や鎖場も点在しており、標高差も1,300mを超えるため、体力とある程度の登山経験が求められます。

それでもこの山が多くの登山者を惹きつけるのは、やはりその“達成感”と“景色”にあります。
道中に点在する「十三仏」をたどる信仰的な雰囲気、ブナ林を抜けて辿り着く稜線、
そして山頂からの北アルプスや日本海まで見渡せる圧巻のパノラマは、苦労してでも登る価値のあるご褒美です。
また、秋には山全体が紅葉に包まれ、その美しさは格別。
静かな山歩きを求める登山者から、百名山を制覇したいという目標を持つ人まで、幅広い層に愛される名山です。
2.登山ルート紹介
今回歩いたルート

今回の登山は、戸隠キャンプ場からスタートして、高妻山のピストンルートを選びました。
朝6時半前に「キャンプ場前駐車場」を出発し、まずは戸隠イースタンキャンプ場を抜けて登山口へと向かいます。
紅葉の残る静かな林道を進みながら、身体と心を登山モードに切り替えていきます。

7時過ぎ、登山道入口の駐車場に到着。ここから本格的な登りが始まります。
まず現れるのは、「一不動避難小屋」までの急登。このセクションはなかなかの傾斜で、朝一からいい汗をかかされます。
避難小屋で小休憩を入れ、息を整えたら、いよいよ稜線へ。

続いては「五地蔵山」。視界が開け、紅葉に包まれた尾根道が一気に広がります。
ここから高妻山の山頂までは、アップダウンを繰り返すチャレンジングな区間。
岩場や細いトラバースもあり、集中力を切らさずに慎重に進みました。

10時過ぎ、ついに標高2,353mの高妻山山頂に到達。山頂からは北アルプスや妙高連山、日本海方面まで大パノラマが広がり、思わず時間を忘れる美しさでした。
しばし景色と達成感を味わいながら、軽く山ごはんでエネルギー補給。
下山は、登ってきた道をそのまま引き返すルート。
岩場を慎重に降りつつ、五地蔵山で再び休憩。
午後1時過ぎには登山口に戻り、無事キャンプ場の駐車場へと帰着しました。

全体の行動時間は約7時間ほど。
アップダウンもあり体力的にはなかなか手応えのあるルートですが、紅葉と信仰の雰囲気、そして山頂の絶景はそれ以上の価値がありました。
所要時間・コースタイム
今回の高妻山登山にかかった所要時間は約7時間6分。
登りは休憩を挟みつつ約4時間、下りはややペースを落としながら約3時間。
標高差が大きく、体力的にもなかなかタフなコースでしたが、ペースを守って歩けば十分に日帰り可能なルートです。
以下が当日の主な通過ポイントと時刻です:
- 06:29 キャンプ場前駐車場 出発
- 07:59 一不動避難小屋(小休憩)
- 08:55 五地蔵山
- 10:46 高妻山 山頂
- 13:35 登山口戻り
- 13:36 キャンプ場前駐車場 到着

今回は秋の冷たい空気と紅葉を楽しみながら、ややゆったりめのペースで歩きました。
季節や天候によって時間は前後すると思いますが、早朝出発すれば日没にも余裕をもって下山できます。
地図・GPX・参考情報
今回の登山では、事前にルート情報をしっかり確認してから臨みました。
コースは分岐が少ないものの、岩場や急登が続くため、地図やGPSの準備は必須です。
使用した主な情報源はこちら:
- YAMAP(ヤマップ):ルートの下見と、実際の行動記録をGPXで確認
- ヤマレコ:登山者の記録や最新の道の状況をチェック
- 国土地理院 地図:地形と標高差を事前に把握
- 登山ガイドブック「日本百名山」:高妻山の歴史・ルート概要を参照
実際の登山中は、YAMAPのオフライン地図をスマートフォンにダウンロードして使用。
圏外になる区間もあるため、紙の地図とモバイルバッテリーも持参しておくと安心です。
※今回歩いたルートのGPXデータは、ブログの最後にリンクを掲載しています
【日本百名山】高妻山 登山 / HAL9000さんの高妻山・戸隠山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
3.登山レポート:秋色の稜線を歩く
紅葉の見頃や色づき具合

高妻山の紅葉は、例年10月中旬から11月上旬にかけてが見頃となります。
今回(2024年11月3日)の登山では、登山口付近や中腹のブナ林ではちょうど紅葉が見頃を迎えており、道中は美しい秋色のトンネルを楽しむことができました。

特に一不動避難小屋周辺では、カエデやナナカマドが鮮やかに色づき、朝の柔らかい光に照らされた紅葉がとても印象的でした。
一方で、標高の高い稜線や山頂付近ではすでに紅葉は終わり、落葉が進んでいて晩秋の静けさが広がっていました。
枝越しに遠くの山並みを望む風景もまた趣があり、季節の移ろいを感じられる登山となりました。
全体としては、秋の名残を感じながらも、冬の気配がほんのり混ざり始めた高妻山の表情を楽しめる、ちょうど境目のタイミングだったと思います。
稜線と山頂からの景色

五地蔵山あたりから稜線に出ると、景色は一気に開け、息をのむような展望が広がります。
東側には黒姫山や戸隠山、遠くには北アルプスの峰々が顔をのぞかせ、空との境界線がくっきりと浮かび上がります。

この日は空気が澄んでいて、陽の光を受けた山肌が美しく輝いていました。紅葉はすでに終盤でしたが、落葉した木々の枝越しに見える山々が、どこか静謐な雰囲気を漂わせていて、それもまた季節の味わい。
そして、登頂のご褒美とも言える高妻山山頂からの大展望。
360度パノラマで、北アルプス、妙高・火打連山、遠くには日本海まで見渡せる大迫力の眺望に、思わず言葉を失います。

静かに吹き抜ける風と、どこまでも広がる景色の中で感じる解放感は、やはり山頂に立った者だけの特権。
時間を忘れて眺めに見入ってしまう、そんなひとときでした。
4.下山と振り返り
下山時の様子
山頂で景色と達成感をたっぷり味わったあとは、名残惜しさを感じつつ下山開始。
来た道をそのまま引き返すピストンルートですが、登りでは気づかなかった景色や、逆方向ならではの視界の広がりに思わず足を止める場面も。

五地蔵山の稜線では、陽の角度が変わったことで山肌がより立体的に見え、朝とは違った表情に。
紅葉が残る中腹を歩く頃には、柔らかい西陽が差し込み、ブナ林が黄金色に染まってとても幻想的でした。
とはいえ、岩場や急な下りが続くため、最後まで気は抜けません。
疲れた足をいたわりながら慎重に歩を進め、午後1時半すぎに無事登山口へ到着。
駐車場に戻ったときのあの安堵感と、心地よい疲労感は、登山ならではのご褒美のひとつですね。

下山後は、登ってきた稜線をふと見上げて、「あそこまで行ってきたんだな」としみじみ。
自然と笑顔がこぼれる、そんな満ち足りたエンディングになりました。
登山を通して感じたこと
高妻山は、登るたびに自分と向き合う時間をくれる山だと思いました。

急登や岩場、長い稜線歩きと、決して楽なルートではありませんが、その分、静かな森の中で聞こえる鳥の声や、自分の足音、風の通り抜ける音にじっくりと耳を傾けられる時間があります。
今回は紅葉のピークを過ぎ、山の上では葉を落とした木々が冬の準備を始めていました。
その静けさが逆に印象的で、「季節が変わっていく」ことを、肌で、視覚で、心で感じられるひとときでした。

山頂での景色はもちろん圧巻でしたが、それ以上に、歩く中で感じる「今この瞬間を生きている実感」が、この山を歩いた一番の収穫だったかもしれません。
また、厳しさの中にあるやさしさ、孤独のようでいて不思議と心が満たされるあの感覚。
高妻山という山が持つ独特の静けさと力強さに、またきっと会いに来たいと思いました。
5.おわりに
初心者の方へのひとことアドバイス
高妻山は、日本百名山の中でも比較的“手強い”部類に入る山です。
距離も標高差もあり、岩場や急登も続くので、「ちょっと登ってみようかな」くらいの軽い気持ちでは挑まないほうが安心です。
とはいえ、しっかりと準備をすれば、初心者の方でも登頂は可能。
事前の体力づくりやルート確認、天気チェック、そして**「無理をしない」ことが大切**です。
・登山靴は滑りにくいしっかりしたものを
・水や行動食は多めに準備
・登山アプリや紙地図の携帯も忘れずに
・急登では「ゆっくり、深呼吸」を意識して
そして何より、自分のペースを守ることが登山を楽しむコツ。
景色を楽しむ余裕が持てるくらいのスピードで、五感をフルに使って歩いてみてください。
苦労した分だけ、山頂の景色は何倍にも感動します。
「この山に登れた」という自信は、きっと次の山への原動力にもなってくれますよ!
自然への感謝と、美しさに触れて
高妻山のふもとを歩き、森のざわめきを感じ、稜線に出て風を浴び、そして山頂から遠くの山並みを眺める——
この一歩一歩の中に、自然の偉大さとやさしさを、心から感じることができました。
紅葉が色づき、葉が落ち、季節がまた一つ進んでいく。
そんな何気ない風景の中に、当たり前ではない美しさがあって、それを見つけられた自分は、なんて幸せなのだろうと思います。
自然はいつだって、黙ってそこにあり、ただ静かに移ろい続けている。
その中に身を置くことで、自分の呼吸が整い、心が静かにほどけていくのを感じました。
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