静寂の中に包まれた山頂で、夜が明けるその瞬間を迎える。普段の忙しい生活から解放され、自然の息吹を感じながら迎える新年の始まりは、何にも代えがたい特別な瞬間です。今年の初日の出を、私は友人とともに高尾山から陣馬山へと続く稜線を歩きながら迎えました。夜通し歩き、ひと足ひと足を踏みしめながら進んでいくその道のりは、ただの登山ではなく、心を清め、新たな気持ちで一年をスタートさせるための大切な儀式のように感じられました。
■ はじめに
高尾山・陣馬山とは

高尾山(標高599m)は、東京都八王子市に位置し、都心からのアクセスが非常によく、年間登山者数は世界有数を誇るほど人気のある山です。ケーブルカーや整備された登山道、山頂からの展望の良さに加え、四季折々の自然が楽しめることから、老若男女問わず多くの人に親しまれています。
一方、陣馬山(標高855m)は高尾山からさらに奥、多摩と神奈川の県境に位置する山で、馬の像が立つ広々とした山頂が特徴です。晴れた日には富士山や丹沢山系の絶景が広がり、静かな雰囲気の中でゆったりとした時間が流れます。
この2つの山をつなぐ「高尾山〜陣馬山縦走路」は、自然豊かな稜線歩きを楽しめる人気コースです。全長約18km、アップダウンはありますが整備された道が続き、適度な登山の達成感が味わえます。特に夜間に歩くことで、昼間とは異なる静寂と神秘的な雰囲気を体験でき、初日の出登山としても多くの登山者に選ばれています。
■ 登山計画と準備
ルート概要
今回の縦走ルートは、京王線・高尾山口駅をスタートし、高尾山、城山、小仏峠、景信山、明王峠を経て、最終目的地の陣馬山を目指す全長約18kmのコースです。登山道はよく整備されており、危険箇所も少ないため、ヘッドライトと防寒装備をしっかり用意すれば、ナイトハイクにも適しています。
高尾山までは複数の登山ルートがありますが、今回は暗い時間帯のため、傾斜がゆるく迷いにくい「1号路」を利用。高尾山山頂から先は、静かな稜線歩きが続きます。昼間は多くの登山者でにぎわう道ですが、夜間は人も少なく、森の静けさと星空を感じながらの幻想的なハイキングとなりました。
陣馬山の山頂は広く開けており、南東方向の展望が良いため、初日の出を見るには絶好の場所です。タイミングを合わせて登頂できれば、山々のシルエット越しに昇る朝日をじっくりと堪能できます。
ゴール後は、陣馬高原下バス停まで下山し、バスで藤野駅または高尾駅へ戻るのが一般的な下山ルートです。
夜間登山に向けた装備
夜間の登山は、昼間とはまったく異なる環境になります。視界が限られる中で安全に歩くためには、十分な装備と準備が不可欠です。今回は初日の出を目指して深夜から歩き始める行程だったため、以下の装備を用意しました。
ヘッドライト(必携)
両手を空けた状態で歩くためにはヘッドライトが必須です。LEDタイプの明るいものを選び、念のため予備の電池も携行しました。また、光量の調整ができる機種を選べば、周囲の環境に応じて使い分けができて便利です。
防寒着
冬の夜間登山は気温が氷点下になることもあります。行動中は汗をかかない程度のレイヤリングを心がけ、休憩時や山頂ではダウンジャケットや厚手のアウターでしっかりと体を保温しました。手袋、ネックウォーマー、ニット帽も冷え対策に欠かせません。
手元ライトや予備ライト
万が一ヘッドライトが故障したときのために、手持ちの小型ライトも携行しました。地図を見るときやザックの中を探すときにも便利です。
トレッキングポール(必要に応じて)
暗闇でのバランス確保や疲労軽減のために、トレッキングポールを使用。特に段差の多い下りでは安定感が増します。
温かい飲み物と行動食
寒さで体力を消耗しやすいため、すぐに食べられるエネルギー補給用の行動食と、保温ボトルに入れた温かい飲み物を持参。夜の稜線で飲む一口は、心身ともに温まります。
その他の装備
地図アプリ(YAMAP等)、スマートフォンのモバイルバッテリー、レインウェア、エマージェンシーシートなども持っておくと安心です。
暗闇の中では小さなミスが大きなリスクにつながることもあります。万全の装備と慎重な行動が、安全で快適な夜間登山を支えてくれます。
出発時間とタイムスケジュール
今回の登山は、京王線・高尾山口駅を23時ちょうどに出発する計画でスタートしました。初日の出の時刻が6時50分ごろだったため、余裕を持って行動し、暗闇の稜線を安全に歩くことを最優先にスケジュールを組みました。
以下が当日の主なおおまかなタイムスケジュールです:
- 23:00 高尾山口駅 出発
防寒とヘッドライト装備を整えて登山開始。人気の少ない夜の登山道を静かに進みます。 - 23:50 高尾山山頂 到着
都心の夜景を背に一息。ここからが本格的なナイト縦走の始まりです。 - 01:00 城山 通過
ヘッドライトを頼りに、静かな山道を淡々と歩き続けます。 - 02:00 景信山 通過
風が吹き抜ける稜線では、気温もかなり下がってきました。短い休憩を挟みながら前進。 - 03:30 明王峠 通過
東の空にかすかな光が差し始める気配。ラストスパートに向けて気持ちを切り替えます。 - 05:55 陣馬山山頂 到着
まだ真っ暗な山頂に到着し、防寒対策をしっかり整えて夜明けを待機。 - 06:50 初日の出を拝む
地平線の奥からゆっくりと昇る太陽。冷えた体に光が差し込んだ瞬間の感動は、言葉にできないほどでした。
時間には余裕を持ち、こまめにペースを調整しながらの行動となりました。特に初日の出の時間に遅れないよう、夜間の行動は“想定よりやや早め”が安心です。
【初日の出】高尾山・陣馬山 縦走登山 / HAL9000さんの高尾山・陣馬山・景信山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
■高尾山からのナイトハイク
真夜中の静けさと高尾山登頂の様子

23時、高尾山口駅を出発すると、周囲はすでにほとんど人の姿もなく、駅前の灯りを一歩離れるとあたりはすぐに真っ暗。街の喧騒から切り離された静寂の中、ヘッドライトの光だけを頼りに一歩一歩山道を登っていきました。耳に入るのは、自分の足音と風の音、そして時おり聞こえる鳥や鹿の気配だけ。日中とはまったく違う、静かで神聖な雰囲気に包まれながら歩を進めます。
ところが、山頂に近づくにつれて様子が一変。深夜にもかかわらず、すでに多くの人たちが山頂を目指して登っており、登山道にもライトの列ができていました。高尾山の山頂に到着したのは日付が変わる直前、23時50分ごろでしたが、すでに山頂は多くの人でにぎわっており、展望台周辺は立ち位置を探すのも難しいほどの混雑ぶり。
さすがは“日本一の登山者数”を誇る高尾山、初日の出を山で迎えようとする登山者の多さに圧倒されました。
とはいえ、都心の夜景が美しく輝き、遠くにはうっすらと富士山のシルエットが浮かぶなど、夜の高尾山ならではの眺望は格別でした。静けさから一転、人の熱気とともに年越しムードが高まる山頂。そのギャップもまた、年越し登山の醍醐味かもしれません。
他の登山者の様子

深夜の登山と聞くと、静寂の中を一人で黙々と歩くイメージを持っていましたが、実際には驚くほど多くの登山者が同じように初日の出を目指して山を歩いていました。高尾山口駅周辺にはすでに登山の格好をした人たちが集まり、ヘッドライトの光がちらほらと山道に続いていく様子は、まるで光の行列のようでした。
特に高尾山の山頂付近では、夜中にもかかわらず家族連れやカップル、友人同士のグループなどが多数。年越しの特別な時間を共有しようという思いが、山の上に静かに、しかし確かに満ちていました。
中には焚き火のような光を囲んでお茶を飲んでいるグループや、三脚を立ててカメラの準備をしている写真愛好家の姿もあり、それぞれが自分なりの「年越し登山」を楽しんでいる様子が印象的でした。
登山道では、お互いに「こんばんは」「あけましておめでとうございます」と声を掛け合う場面もあり、初対面同士でもどこか一体感が生まれるのが不思議です。寒くて暗い中でも、見知らぬ人と笑顔を交わすだけで少し心が温まる、そんなひとときが随所にありました。
夜の登山は孤独なものだと思っていたけれど、この日ばかりは違いました。みんなが「新しい年のはじまり」を山の上で迎えようと、同じ目的で歩いている──その連帯感が、とても心地よかったです。
真っ暗な稜線歩きの緊張感と魅力

高尾山を越えてから先は、いよいよ本格的なナイトハイク。街灯などは一切なく、頼れるのは自分のヘッドライトの灯りだけ。左右は深い森に囲まれ、稜線の先がどこまで続いているのかも見えない──そんな真っ暗な山道を、静かに、ひと足ひと足踏みしめながら進んでいきました。
夜の稜線歩きは、昼間以上に集中力を要します。ちょっとした段差や岩の影も見落とせないし、ライトの照射範囲外はすべてが闇。風が吹けば木々のざわめきが不意に大きくなり、何かが動いた気配にドキッとすることもあります。普段よりも五感が研ぎ澄まされ、自分の呼吸や心拍までもがやけに意識にのぼるような、緊張感のある時間でした。
けれどその一方で、夜の山には昼間では味わえない静謐さと美しさがあります。見上げれば満天の星空が広がり、遠くにちらつく街の光がまるで地上の星のように見える瞬間もありました。稜線の先には誰もいないはずなのに、不思議と安心感を覚える──そんな感覚さえ芽生えてきます。
限られた視界の中で歩くことで、ひとつひとつの行動が丁寧になり、自然との距離がぐっと近くなる。夜の稜線には、登山という行為の原点のような、静かで純粋な時間が流れている気がしました。
■陣馬山で迎えた初日の出
到着のタイミングと山頂の雰囲気

陣馬山の山頂に到着したのは05:55。空がわずかに白み始めたころで、まさに夜と朝の境目の時間でした。ヘッドライトを消すと、かすかに稜線の輪郭が浮かび上がり、遠くの空には朝焼けの予兆がにじんでいました。ギリギリのタイミングではありましたが、無事に初日の出を迎える準備が整い、ホッと一息。
山頂はすでに多くの登山者たちでにぎわっており、みんながそれぞれベストポジションを確保しようと動いていました。レジャーシートを敷いて待機する人、カメラを構えてじっと空を見つめる人──それぞれの“新年の瞬間”に向けた静かな高揚感が、辺りを包んでいました。
寒さは厳しく、立ち止まると一気に体が冷えていきます。ダウンジャケットの中に手を入れ、温かい飲み物をすすりながら、太陽が昇るその時を待つ。周囲は静かで、誰もが口数少なく、でもどこか期待に満ちた表情を浮かべていました。
山頂からは東の空が大きく開けており、都心の光や関東平野の広がりが一望できます。やがて、空の一部が金色に染まり始め──いよいよその瞬間が近づいてきます。
初日の出の情景

やがて、6:50。夜明け前の薄明かりが山頂を包み込んだその瞬間、東の空がほんのりとピンク色に染まり始めました。次第にその色合いは黄金色に変わり、雲の合間から細い光線が差し込んでくる。静かな空気の中で、周囲の登山者たちもその変化に気づき、息をのむように視線を空に向けました。
そして、突然、雲の切れ間から丸い太陽が顔を出し、あたりを一気に明るく照らし始めました。その瞬間、思わず心の中で小さく「ありがとう」とつぶやいてしまうほど、感動的な光景が広がっていました。太陽の光が山々を、そして自分たちを包み込み、冷えた体が温かくなるのを感じるとともに、新しい一年の始まりを実感しました。

山頂からの視界はまさに絶景で、前方には富士山がその雄姿を現し、周囲の山々が朝の光を浴びて美しく輝いています。下界の街の灯りもまだ微かに残り、夜の静けさと朝の活気が入り混じった不思議な空気が漂っていました。登山者たちが手を合わせたり、カメラを構えたりする中、しばらくその美しい情景をただ静かに見つめ続けました。

空の色が徐々に鮮やかな青に変わり、太陽が高く昇るにつれて、山頂の温かさも増してきます。冷たい空気の中に、清々しい新年の始まりを感じながら、心からの安堵と幸福を噛みしめました。山の頂上で迎える初日の出。それは、言葉にできないほどの感動と、心を満たしてくれる特別な瞬間でした。
年明けの静かな山の空気と心境

太陽が山頂を照らし始め、周囲の登山者たちが初日の出を祝う中、私は静かな山の空気を深く吸い込みました。冷たく澄んだ空気が肺に広がるとともに、身体中に新たなエネルギーが満ちていくのを感じます。人々が賑やかに談笑し、カメラのシャッター音が響く中、私は一人、ただその瞬間の静けさを噛みしめていました。

年明けの山頂は、なんとも言えない平和で穏やかな空気に包まれていました。深呼吸を繰り返しながら、目の前に広がる自然の美しさに心を奪われ、その場に立つことで、日常の喧騒から解放されたような感覚に包まれました。この瞬間、自分がどれだけ恵まれているのか、改めて実感することができました。冷たい空気も、太陽の光に包まれることで温かく感じ、心の中に湧き上がる感謝の気持ちが静かに広がります。
新しい一年が始まったという実感が、心の奥深くにゆっくりと染み渡るような、そんなひとときでした。普段は慌ただしく過ごしてしまう日々の中で、こうして静かな自然の中で過ごす時間が、どれほど大切なのかを強く感じました。この新しい年が、穏やかな気持ちと共に歩み続けられるように、と願いを込めながら、少しずつ山頂を後にしました。
■下山と振り返り
陣馬山からの下山ルート
初日の出を拝んだ後、陣馬山の山頂を後にして、下山のルートを歩き始めました。まだ朝早いため、登山道は比較的静かで、急な下りもなく、穏やかなトラバースが続いています。朝の光が山肌に差し込み、木々の間から見る景色は、昨日の夜とはまったく異なる一面を見せてくれました。
下山ルートは陣馬山から和田峠を経由して高尾山口へ向かうルートです。最初は広い道が続き、歩きやすいのですが、次第に狭く、やや急な部分も現れてきます。それでも、まだ日の出直後の清々しい空気が体を包み、疲れを感じることなく、むしろ心地よさを感じながら歩き続けました。
山を下ると、周りの景色が少しずつ変わり、尾根道から見下ろすと、濃い霧が谷間に立ちこめ、幻想的な景色が広がっています。空気が澄んでいるため、遠くの山々もくっきりと見え、まるで絵画のように美しい風景が広がっていました。この時間帯ならではの、清らかな朝の空気を感じることができ、普段の登山では味わえない特別な体験でした。
下山が進むにつれて、次第に登山者の数が増えてきました。登山道の途中でお正月のご挨拶を交わしながら、無事に和田峠に到着。ここからさらにゆるやかな坂道を進み、最後は高尾山口駅に到達。下山後もまだまだ新しい年の清々しさが心に残り、満足感と共に終わることができました。
山の頂で迎えた新年の瞬間が、心に残るだけでなく、その後の静かな下山道で感じた穏やかな空気と相まって、より一層特別な思い出となりました。
【初日の出】高尾山・陣馬山 縦走登山 / HAL9000さんの高尾山・陣馬山・景信山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
印象に残った出来事
今回の登山で、特に印象に残った出来事は、友人と夜通し歩きながら過ごした時間でした。夜遅くからのスタートで、最初は眠気を感じるかと思いきや、意外にも全く眠くなることはありませんでした。むしろ、夜の静けさと冷たい空気の中で歩いていると、心がクリアになり、まるで新たなエネルギーを得たように感じました。
一緒に歩きながら、友人と無駄話をしたり、登山に関する昔話や新年の抱負を語り合ったりと、普段はなかなかゆっくり話すことのできない話題で盛り上がりました。ヘッドライトの光だけが頼りで、周囲は真っ暗な中、ただお互いの声だけが響く静かな夜。その時間がとても楽しく、むしろ暗闇の中で友人と一緒にいる安心感が、眠気を吹き飛ばしてくれるようでした。
夜間登山ならではの、非日常的な時間の流れの中で、歩きながら語ることの楽しさや、友人との絆の深さを再確認できた瞬間でした。疲れも感じず、むしろ体が軽く、楽しい会話と共に、時間があっという間に過ぎていったのです。
山道を歩きながらのこんな時間が、これからの登山にも活かせる貴重な思い出となりました。昼間の登山とはまた違った魅力を感じることができ、夜の山道で一緒に過ごすことで、より深く友人との絆が強まった気がします。
■ おわりに
新年を山で迎えることの意味
新年を山で迎えることには、何とも言えない特別な意味があります。普段の年越しとは違い、喧騒から離れ、自然の中で迎える新年は、心が静まり、自己と向き合う貴重な時間になります。特に山という場所は、その静寂と広大さが、普段の生活では感じることのできないスケールの大きさと深い安らぎを与えてくれます。
山頂で迎える初日の出は、ただの新年の始まりではなく、自然と一体になり、時間の流れを感じながら心の中で新たな決意を抱く瞬間です。日常では気づかないような小さなこと、そして自分自身にとって本当に大切なことに気づかされるような気がします。山の静けさとその壮大な景色は、心の中にある不安や焦りを和らげ、より純粋で清々しい気持ちにさせてくれるのです。
また、登山という行為自体が一歩一歩を踏みしめながら進むことを求められ、まさに「新たな一年をどのように過ごすか」を象徴するような体験です。山で過ごす時間の中で、過ぎ去った年を振り返り、今後の自分をどう歩んでいくかという思いが自然と湧き上がります。高い山から見る景色の広がりは、自分の未来に対する期待や希望を大きく感じさせ、背中を押してくれるような力強さがあります。
新年を山で迎えることは、ただの年越しではなく、心身をリセットし、静かに、そして確かに新しいスタートを切るための大切な儀式のように感じられます。自然の中で新たな年を迎えることで、日常に戻った時に、より充実した気持ちで過ごせる自分がいると感じられるからです。
【初日の出】高尾山・陣馬山 縦走登山 / HAL9000さんの高尾山・陣馬山・景信山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
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