平標山バックカントリー:春のストップ雪に翻弄された一日

スノーボード

2025年3月23日、晴れ予報に胸を躍らせながら、バックカントリー装備を背負って平標山へ向かった。
この時期ならではのザラメ雪と、広々としたオープンバーンでの気持ちいい滑走を期待していたのだけど――現実は、そう甘くはなかった。

気温の上昇とともに、雪は一気に重たくなり、斜面に出ると板が止まる止まる…。
そんな“春の洗礼”を受けながらも、青空の下、仲間と歩いた稜線と山の静けさはやっぱり特別だった。

今回は、そんな春の平標山バックカントリーの記録と、ストップ雪に翻弄された一日を振り返ります。

はじめに

平標山とは

平標山(たいらっぴょうやま)は、新潟県と群馬県の県境に位置する標高1,984mの山で、谷川連峰の西端にあります。谷川岳のような険しさとはまた違った、どこか穏やかな山容が特徴で、「谷川岳の展望台」なんて呼ばれることもあるくらい、山頂からの景色は格別です。

特にバックカントリーのフィールドとしても人気があり、広く開けた斜面が魅力的。冬から春にかけてはパウダーを求めるスキーヤー・スノーボーダーが多く訪れる場所でもあります。アクセスが比較的良く、日帰りでも十分楽しめるのも魅力のひとつ。

今回はそんな平標山に、春のバックカントリーとして訪れました。美しい稜線歩きとダイナミックな滑走を期待していたのですが…

なぜ平標山を選んだのか

平標山に初めて登ったのは夏。草原のように広がる稜線と、谷川連峰を見渡す大展望に圧倒され、「こんな場所があるんだ」と素直に感動したのを覚えている。静かで優しい雰囲気の中に、どこか雄大なスケールを感じられる山――それが自分の中の平標山のイメージだ。

そんな印象がずっと頭の片隅にあって、いつか雪をまとった姿も見てみたい、できればあの稜線をスキーで歩き、滑ってみたい…そう思うようになった。

アクセスも比較的良く、標高もそこそこ、バックカントリー初心者にはちょうど良いバランスの山。今回はその「憧れの雪の平標山」に、ついに足を踏み入れるチャンスだった。

松手山・平標山 / HAL9000さんの仙ノ倉山・平標山・大源太山の活動データ | YAMAP / ヤマップ

この日の天気予報と事前情報

今回の山行に向けてチェックしていた天気予報では、午前中は晴れ、午後から下り坂という内容。風もそれほど強くなさそうで、「午前中に登って滑ってしまえば問題なさそう」と判断し、早めの行動を意識して計画を立てた。

気温はやや高めで、完全な春山モード。雪が緩みやすいコンディションになりそうだったけど、前日に同じルートに入った人のレポートでは「問題なく滑れた」「そこそこ走る雪」との報告があり、そこまで悪くない印象を受けていた。

「この時期としてはラッキーかも」「ザラメっぽいけど板もそこそこ走るだろう」
そんな前向きな期待を胸に、朝の暗いうちから登山口へと向かった。

アクセス・登山口情報

登山口までの道のり

当日は早朝に自宅を出発し、車で登山口へと向かった。道路に積雪はなく、ノーマルタイヤでも問題なさそうな状態。ただ、日陰のカーブなどはまだ油断できない季節。慎重に運転しながら平標山登山口の駐車場に到着したのは朝7時ちょうど

駐車場の状況や混雑具合

すでに何台かの車が停まっていて、全体の1/3ほどが埋まっている状況だった。前日に雪が良かった影響か、それとも春らしい陽気に誘われたのか、早くから動いている人が多い印象。とはいえ、まだ余裕はあり、落ち着いて準備を整えることができた。

車から降りると、ひんやりとした空気に包まれつつも、日差しがやわらかく差し込んでいて「今日はいい一日になりそうだ」と、この時点では本気で思っていた。

登りの様子

天気、気温、雪の状態

この日の天気は「雲が多めの晴れ」。完全な快晴というわけではなかったけれど、時折太陽が顔を出しては、雪面を柔らかく照らしてくれる。春らしい、穏やかで優しい空模様。ただ、空を見上げると、ところどころに厚めの雲が流れていて、「午後から崩れるかも」という予報を思い出すような気配もあった。

気温は朝から高めで、登りの途中からすでにウェアの中は蒸し暑いくらい。風が弱かったこともあり、気温の高さがそのまま体に伝わってくるような感覚だった。陽が差す斜面では雪が緩み始めていて、「今日は雪、だいぶ重そうだな…」という不安が早くもよぎる。

その予感は、滑走に入ってすぐに現実になる。板が進まない。足を取られる。スピードが出ない。 まさに「ストップ雪」の典型で、見た目には滑れそうな斜面も、いざ滑ると板が雪に貼りついてしまう。どうにも気持ちよく滑れず、ただただもどかしい。

「天気は悪くないのに、なぜこんなに滑らないのか」――そんな言葉が頭をよぎる、春山らしい試練の一日だった。

景色や印象的だったポイント

この日の景色は、雲が多めの晴れという微妙な空模様にもかかわらず、時折雲が流れて山頂が顔を出すたびに、その美しさに心を奪われた。雲間から差し込む太陽の光が雪面を照らし、まるで別世界にいるような感覚になる瞬間が何度もあった。

特に、登り途中の稜線から見下ろす景色は印象的だった。周囲の山々が薄く霞みながらも、その輪郭をはっきりと浮かび上がらせ、谷川連峰の迫力ある姿が遠くに見える。風景の大きさに圧倒されつつも、平標山の山頂が時々姿を現す瞬間は、その美しさと力強さにただただ感動していた。

雪面は硬めで歩きにくい部分もあったが、そんな不快さすら吹き飛ばすような素晴らしい景色。思わず立ち止まり、深呼吸しながら「これが春の山なんだ」と感じた瞬間が何度もあった。

山頂まではいけなかった・・

登頂を目指して順調に歩を進めていたものの、山頂付近に差し掛かったところで、思わぬ状況に直面することとなった。雪面に目を凝らすと、雪にクラックが入っている部分がいくつか見受けられ、雪の状態が非常に不安定であることが感じ取れた。特に山頂付近では、上部の雪が崩れやすい状態になっており、雪崩の危険を避けるため、無理に進むのは非常にリスクが高いと判断した。

周囲の状況を確認し、慎重に話し合った結果、登頂を断念することに決めた。この判断は、後から振り返ると正解だったと確信している。美しい景色と近づく山頂に心が引かれたものの、安全第一を優先し、無理せず下山を選んだ。

この瞬間は悔しい気持ちが強かったが、それでも無事に帰るためには冷静さが必要だと再確認した瞬間でもあった。

滑走開始…しかし

ストップ雪との遭遇

これまで春の雪山では何度かストップ雪を経験したことがあったが、ここまで酷いストップ雪に遭遇したのは初めてだった。最初に滑り出した時点で、雪が重くて板がまったく進まないことに気づき、すぐに「これはやばいかも」と感じた。

雪面は、まるで板が雪に吸い込まれているかのように、完全に止まってしまう。こんなに雪が重くて進まないのは、想像以上に厳しい。

板を滑らせようとしても、雪がまるで壁のように立ちはだかり、まったくスピードが出ない。それどころか、少しでも力を加えると足元がぐらつく。これが春の雪山だとはいえ、予想を遥かに超える重さで、正直かなり戸惑いながらも滑り続けるしかなかった。

滑ってみた率直な感想

滑り出してみて、最初に感じたのは、まるで足を雪に掴まれているような感覚だった。いつものように滑ろうとしたけど、雪が重すぎて、板がまったく前に進まない。まるで、雪が足元を引っ張っているかのように、スピードがまったく乗らない。

力を入れても、雪面に吸い込まれるような抵抗感が強く、板がどんどん止まっていくのがわかる。まるで歩いているかのような遅さで、滑るというより、雪に足を取られながら進むような感じだった。普段ならスムーズにカービングが決まるはずの斜面でも、この雪では板が横向きになりがちで、コントロールも難しく、何度も足元を取られて転びそうになった。

おわりに

今後また行くとしたらどうしたいか

今回のバックカントリーで痛感したのは、ストップ雪のコンディションが事前に調べても運の要素が大きいということ。雪質が予測しきれないため、次回行く際はできるだけ2月ごろを狙って、安定した雪質を狙いたいと思います。この時期なら、よりコンディションが安定していて、雪が軽くて滑りやすい可能性が高いので、理想的なバックカントリーを楽しめる確率が上がると感じています。

とはいえ、どんな時でも雪山にはリスクがつきものなので、しっかりと雪崩情報や雪の状態をチェックし、万全の準備を整えて臨みたいです。また、次回は今回のような重いストップ雪に悩まされないように、雪質の変化に素早く対応できるようなスキルアップも目指したいですね。

さらに、次回は単に滑ることだけでなく、景色や自然の美しさを余裕を持って楽しむことも大切にしたいと思っています。結果として、次回は全体的にもっと楽しめる、充実した山行にしたいと考えています。

同じ場所を狙う人へのアドバイス

春先は、雪質がコロコロ変わることが多く、ストップ雪のような重く滑りづらい雪に遭遇することもあります。事前に天気予報や雪崩情報をしっかりとチェックし、状況に応じて判断を下すことが大切です。また、運の要素が大きいこともあるので、無理に滑ろうとせず、その日のコンディションを楽しむ柔軟な心構えも大切です。

次に、バックカントリーをするなら当然のことですが、装備については万全を期しておきましょう。ビーコンやプローブ、シャベルは必ず携帯し、雪崩に備えた準備を整えてください。気温や天候によっては、雪が予想以上に重くなることがあるので、体力を温存できるように、重い雪に対応できる技術も磨いておくと安心です。

また、登山口からの道のりや駐車場の混雑具合を考慮し、朝早めに到着することをお勧めします。人気の山なので、早朝に到着して駐車スペースを確保しておくことがスムーズなスタートに繋がります。

最後に、登頂を目指す際は無理せず安全第一。雪崩やクラック、雪の不安定さを感じた場合は、潔く登頂を断念する勇気も必要です。自然相手の山行では、計画を変更する柔軟性が求められます。

どんなコンディションでも安全に楽しむためには、しっかりとした準備と冷静な判断が重要です。良いコンディションに恵まれることを願っていますが、どんな場合でも「無事に帰る」ことを最優先に考えましょう。

【バックカントリー】平標山 雪山登山 / HAL9000さんの仙ノ倉山・平標山・大源太山の活動日記 | YAMAP / ヤマップ

コメント

タイトルとURLをコピーしました